2024年4月21日(日)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年1月26日

Muhamad Asyraf Mohd Rasid/Gettyimages

 2022年12月28日付の英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)社説が、「新世界新序とミドルパワーの台頭」と題し、大国間競争の復活は中間にある国々に機会をもたらしていると述べている。

 西側同盟と中露枢軸の競争激化は、ミドルパワー(中級国家)に機会とともに脅威を齎している。米欧や中露は、大国の中間にいるトルコ、サウジアラビア、インドネシア、南アフリカなどに一層の注意を払わねばならなくなっている。

 トルコのエルドアン大統領は、北大西洋条約機構(NATO)加盟国にもかかわらず、対露制裁には参加していない。フィンランドとスウェーデンのNATO加盟申請を阻むことで、同盟国から譲歩を得ようとしている。

 ウクライナ戦争はトルコに大きな影響力を与え、トルコは黒海を通じる穀物輸出合意を仲介し、世界の食料価格インフレを緩和した。将来のウクライナ和平交渉でも重要な役割を果たすかもしれない。

 ウクライナ戦争によるエネルギー価格の上昇は、サウジの影響力を高めた。バイデンは、2022年夏に同国を訪問した。サウジは最近、習近平の訪問を受け入れた。

 インドも、「中間」の道を歩んでいる。同国は、廉価なロシア石油を輸入して西側を怒らせた。しかし、西側の対中政策でインドは重要なので、対露石油輸入は大きな問題にはならないとしている。

 主要7か国(G7)も、20カ国・地域(G20)の中のミドルパワーを無視することはできない。インドネシアで開催された2022年11月のG20サミットの声明が、ロシアを非難し強い立場を示したことは勇気づけられた。これはミドルパワーへの働きかけが重要なことを示した。

 ミドルパワーも、自らの立場につき注意深く考える必要があろう。ロシアや中国による侵略を野放しにしておけば、ゆくゆくトルコ、インドネシア、インド、湾岸諸国などミドルパワーの利益への脅威となって跳ね返ってくることになるだろう。

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 FTの社説がミドルパワーと言うとき、具体的にどこの国を指しているのか。ミドルパワーに確立した定義はない。一部日本の学者が、日本もミドルパワー(中級国家)だとしてその外交を議論した。しかし、それには同意しかねた。日本はミドルパワーというよりは、グローバルパワーと言うべきだ。しばしば、豪州やカナダなどが中級国家と呼ばれる。

 このFTの社説では、「トルコ、サウジ、インドネシア、南アフリカ」をミドルパワーに挙げている。この社説は、最近の「大国間競争の間にある国々」を一般的にそう呼んでいるので、国力が中級である――役割を果たすためには一定のパワーが必要となる――とともに、米欧と中露の間にあってどちら側にも基本的に属さない国々を指している。当稿では、ミドルパワーないし「中間国家」と表現する。

 FTの社説は、そのようなミドルパワーが「台頭」してきていると言う。大国間競争の時代が、そのような国に「機会」をもたらしているとする。


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