2024年4月25日(木)

デジタル時代の経営・安全保障学

2023年2月2日

 警視庁によれば、全国で相次いでいる一連の広域強盗事件の指示役「ルフィ」が通信アプリのテレグラムを使って、メンバーに指示を出していたという。そもそもテレグラムとは一体何なのか、詳しく説明できる読者は少ないかもしれない。

(ロイター/アフロ)

 その歴史を見ていくと、政府による検閲に苦しむ人権活動家や反政府活動家にとっての福音であったことが浮かび上がる。一方、犯罪者やテロリストによって長年にわたり利用されてきた負の側面があり、容易に善悪を断じることができない怪奇な存在であることを読者と共有したい。その上で、広域強盗事件を受け、今後国内でテレグラムの利用を規制する動きが起こり得るが、その規制が得策ではないという筆者の考えを述べる。

「テレグラム」はいかに生まれたか

 テレグラムとはロシアのIT実業家がつくったメッセージングアプリケーションである。読者の方にはLINEのような機能を持つアプリと説明した方がわかりやすいかもしれない。

 スマートフォンにインストールすると、誰でも無料でチャットができ、フォーラムを通じて同好の士と意見交換ができる。月間アクティブユーザーは世界で7億人を超え、ダウンロード数で同5位の人気アプリである。ロシアだけで4000万人のアクティブユーザーがいるという。

 テレグラム創業者の1人、パヴェル・ドゥーロフは1984年にサンクトペテルブルクに生まれた。「ロシアのマーク・ザッカーバーグ」と称されることもある。

 フコンタクテと呼ばれるSNSサービスを立ち上げ、これがロシアにおける最大のSNSとして成功を収め、ドゥーロフは若くして富と名声を手に入れた。しかし2011年、ドゥーロフはロシア当局から、そのSNS上での反政府活動を支持する投稿の削除要求を受ける。自由主義者を自称するドゥーロフはこれを拒否したが、以後長期に渡る当局からの脅迫と経済的締め付けを受け、14年にはとうとうフコンタクテの経営権を手放した。

 そのドゥーロフは13年に少数のロシア系技術者と共にテレグラムを立ち上げた。「テレグラムは自由主義者の手によって作られた。暗号を用いて自由を手に入れるために」と宣言したように、言論の自由を政府の干渉から保護することにこだわる姿勢は、彼のフコンタクテでの経験からすれば自然なことかもしれない。

 テレグラムは当初から暗号を使用してメッセージを秘匿する機能を備えていた。ユーザーとサーバー間の通信が暗号化され、経路上での盗聴が不可能なのは当然として、シークレットチャットとよばれる機能を使うと、テレグラムの管理者ですらユーザーのメッセージを読むことができなかった。現在ではテレグラム以外のメッセージングアプリケーションにも同様の機能が備わっているが、13年当時は先進的な機能であった。


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