アメリカでストライキが多発し、2023年の参加者数は前年に比べて2・4倍の約53万9000人に達した。全米自動車労働組合(UAW)や全米映画俳優組合、教員組合、医療従事者の大規模ストが参加者数を押し上げた。日本と同様に労働組合の組織率は長年低迷が続くが、アメリカでは労組への期待が高まっている。長年蓄積してきた「ある不満」がストの拡大と賃上げ交渉を後押ししているようだ。(共同通信ワシントン支局 金友久美子)

 ▽ワシントン有力紙で48年ぶりの大規模スト
 「われわれは今日も闘うぞ」。首都ワシントンの通りで2023年9月、中南米からの移民十数人が横断幕や旗を手に、スペイン語で歌ったり、叫んだりしていた。多くが目の前のビルの清掃員。契約期限が迫り、時給の引き上げを訴えているという。

 向かいのビルから駆け付けたヘクター・ペレズさんは「契約の内容や形態はそれぞれ違うが声を上げなければ待遇が悪くなるばかりだ。だから今日は帰宅途中に応援に来た」と話す。地元報道によると、世界銀行などの国際機関で働く人を含め、ワシントンと周辺の清掃員らは2〜3割の賃上げを勝ち取った。

 さらに2023年12月には名門紙ワシントン・ポストの労組が48年ぶりの大規模ストに踏み切った。本社前で「スト中」とのプラカードを掲げる様子を取材に行くと、グラフィック部署の女性に話しかけられた。「会社側は労働者の権利を弱めることばかりに熱心で、交渉にすら誠実に応じていない」と憤る。名門紙と言えど、物価が高いワシントン近郊で暮らすスタッフの生活は苦しい。他の大手メディアとの待遇差や要求項目などが書かれた小さなリーフレットを「同僚にも配って」と、どさっと手渡された。

 ▽25%の賃金アップに結実
 プラカードを手に練り歩く労働者の姿を初めて見たときは驚いたが、いまやアメリカの日常の風景になっている。コーネル大学によると、2023年には全米で466件のストライキが発生した。とりわけ、日本でも頻繁に報道されたUAWやハリウッドなど四つの大規模ストライキでの動員数は目覚ましく、2023年のスト参加者総数の約65%を占めた。

 労働者不足や物価高、電気自動車(EV)への移行、人工知能(AI)の脅威…。ストを後押しした要因はさまざまだが、賃上げラッシュには確実につながっているように見える。

 ビッグスリーと呼ばれる自動車大手3社を相手取ったUAWのストでは、4年半で25%の賃上げを獲得した。全米映画俳優組合は段階的賃上げや、不利益軽減のための人工知能(AI)規制などが盛り込まれた。米メディアによると、医療大手カイザー・パーマネンテやロサンゼルスの公立学校でのストも今後複数年で2割強賃上げすることで合意した。

 ▽上位1%に恩恵、所得格差は「政治的につくられた結果」
 スト活況の裏で見逃せないのは、1980年代以降に広がった所得格差への不満と、党派を超えた裾野の広い労組への支持だ。

 米労働省などによると、労組に加入する労働者の組織率は1983年の20%から、2023年には10%へと半減した。それと反比例するように、上位1%の富裕層が占める所得は1983年の12%から2022年に21%へと上昇している。

 米シンクタンクの経済政策研究所は「1930年代半ばから1970年代後半までは(政策や団体交渉で格差を縮めた)『大圧縮』の時代だったが、その後は不平等が拡大し続けた」と分析した。現在のアメリカの所得格差は「要するに政治的選択の結果」であり、政策が意図的に作り出したものだとして是正の必要性を指摘する。

 歴史的に蓄積された不満は、労組への支持につながっている。ギャラップ社が2023年に実施した世論調査では国民の67%が労働組合を支持した。以前から労組を重んじる傾向にある民主党支持層では88%に上り、共和党支持層(47%)や無党派層(69%)でも高い水準と言えそうだ。

 ▽「今度はあなたたちの番だ」労働界のスターは大統領選にも影響力
 アメリカでは今年も労組結成やストが続くとみられるが、中でも自動車業界の動向が注目されている。昨年の大規模ストを成功させたUAWのフェイン会長は「今度はあなたたちの番だ」と、組合のない自動車大手での労組結成を呼びかけている。

 UAWは、狙いを定めるトヨタ自動車やホンダ、日産自動車、SUBARU(スバル)、マツダの日本勢、韓国の現代自動車や米電気自動車(EV)テスラを含む14社の状況をまとめた特設サイトも開設した。

 一方、11月に迫る大統領選では激戦州の労働者票が今回も鍵となることは間違いない。バイデン大統領はフェイン氏に再三支持を求め、今年1月にようやくUAWの推薦を得た。フェイン氏の人気を取り込もうと、バイデン氏の遊説先でツーショットを見る機会も増えていきそうだ。

 かつて民主党の地盤だったミシガン州などは製造業の空洞化で「ラストベルト(さびた工業地帯)」と呼ばれるようになり、2016年の大統領選ではトランプ前大統領が経済停滞にあえぐ白人労働者の不満を支持につなげて勝利した。2020年には逆にバイデン氏が奪還してトランプ氏を引きずり降ろす原動力にもなっている。

 「あなた方がこの国をつくり、動かしている」。トランプ氏は各地の集会で、自分こそ労働者の味方だとアピールを続けている。ストと労働者票の動向は、アメリカのみならず世界を大きく変える可能性を秘めている。