今季が来日6シーズン目となるソフトバンクのカーター・スチュワート(写真提供・福岡ソフトバンクホークス)

 ソフトバンクのカーター・スチュワート投手にとっての“新3カ年計画”が始まった。元MLBのドラフト1位右腕は当初の予定であった早期のメジャー凱旋プランを修正、来たるべき日に備えようとしている。

「将来はメジャーリーグを代表する投手」になる逸材と言われたスチュワートだが、今季もまずは一軍先発ローテーション定着が目標となりそうだ。

「今季限りでソフトバンクとの契約が終了し、来季からは満を持して母国でのマウンドに上がる予定だった。しかし成長の度合いが想像以上に鈍く、契約を延長して来季以降もチームに残る形となったのだろう」(ソフトバンク関係者)

 現在24歳の右腕は高校時代の2018年にMLBブレーブスからドラフト1巡目(全体8位)で指名を受けたが、身体検査で右手首に異常が判明。条件面での折り合いがつかず入団に至らなかった。その後、短大へ進学してプレーしていたが2019年6月に“電撃的”なソフトバンク入りが決まった。

 ソフトバンク入団時に結んだ6年契約の最終年となる今年11月に25歳を迎えるため、契約満了時には「25歳ルール」をクリアし、フリーエージェント(FA)の選手として好条件のメジャー契約でのMLB復帰を目論んでいたはずだ。しかし日本でのここまで5年間で思った通りの成長や実績を残すことはできなかった。

「(スチュワートのパフォーマンスに)最も失望したのは代理人のスコット・ボラス氏かもしれない。信じられない高額契約をまとめることで吸血鬼と呼ばれる男でも、現状のスチュワートではメジャーとの交渉が難しいと考えたのだろう。スチュワートの素材は超一流だけに3年の猶予期間を確保したと見るべき」(在米スポーツライター)

 当初の予定では今頃は日本である程度の成績を残しているはずだったのだろうが、昨シーズンまで実働はわずか2シーズン。通算でも3勝8敗、防御率4.01と平凡なものだ。時に「さすが元MLBのドラ1と右腕」と思わせるポテンシャルの高さを見せているものの、このままでは今シーズン中に圧倒的な数字を残さない限りはメジャーリーグの球団からは大型契約は得られないだろう。

 そこでスチュワート側は日本で実績を積む“猶予”を作りだすため、ソフトバンク側は最初の6年契約で支払った総額700万ドル(約10億8000万円)プラス出来高の“投資”を取り戻すためか、昨オフに契約を延長。2025年からの2年で最大1000万ドル(約15億4000万円)で契約を交わしたが、日本でいまだ実績のない選手に払い過ぎとの声も多い。

 素質はメジャーでも一線級になれるものはあるが、果たして契約が終わる頃にはスチュワート、球団の双方にとって満足となる結果となっているのかは楽しみでもある。

「投手としての潜在能力は素晴らしいものがある。課題だったフィジカルやメンタルもNPB方式で鍛え上げられてプロレベルに達しつつある。あとは一軍ローテーションに入って1年間を乗り切ることで、経験や自信を持てるようになるだろう」(ソフトバンクOB)

 思ったような成長曲線は描けなかったが、昨シーズンは来日後最多となる14試合に先発登板。さらにクライマックスシリーズ(CS)のファーストステージ、ロッテ戦で登板(3回途中4失点)するなど、成長の跡はしっかりと見せている。あとは本格的にローテーションの一角としての活躍が待たれている。

「10代の頃から球の力で相手打者を抑えることができていた。今は投手として全ての面を1つずつ積み上げている途中なので、もう少し時間がかかるだろう。しかし昨年CSでの敗戦などで得たものは決して小さくはない。大きくブレイクする可能性は十二分にある」(MLBアジア地区担当スカウト)

「現状でも強引な交渉をすれば来季からMLBでプレーさせることもできたはず。しかしスチュワートの未来を見据えてソフトバンクと2年契約を選んだのだろう。今まで数多くの選手を見てきたボラス氏の判断だけに伸び代に期待が持てそう」(在米スポーツライター)

「1年間一軍で過ごしながらチームが優勝できるように頑張りたい。10勝はしたいです」とスチュワート本人が語っているように、今季は開幕から先発ローテーション入り。これまで2試合に先発して勝ち負けこそないが、10回2/3を投げて防御率2.53という結果を残している。

「昨年のCSの敗戦はかなり悔しかったらしい。普段はマイペースなナイスガイだが野球に関してはかなりの負けず嫌い。昨年の悔しさを晴らしてくれるはず」(ソフトバンク関係者)

 今季は開幕ローテ入りを果たしたものの、他投手との兼ね合いで二軍調整の時期もあると予想されるが「(スチュワートが)二桁勝ってくれればチームは優勝に近づく」(ソフトバンクOB)と3連覇中のオリックスから“常勝軍団”の称号を取り戻すためにも、右腕の飛躍は欠かせないはず。

 ソフトバンクは毎年のように大型補強を繰り返しながら2020年以来、優勝から遠ざかっている。スチュワートへも多大な投資を行っているだけに結果が求められている。またその活躍が3年後に予想されるMLB球団との大型契約にも直結するはず。誰もが笑顔になるためにも、メジャーのドラフト1位右腕という評価に違わぬ投球を今季こそ見せて欲しいものだ。