高校、大学、トップリーグの三つすべてでキャプテンを務めた経歴を持つ日本ラグビー界の重鎮・佐々木隆道選手。「(現役選手としては)おじさんなんで」と低姿勢に取材に応えながらも、自己ベストの記録更新を意気揚々と話す。若手を支えながら、それを自身の成長にもつなげる36歳は現代ミドルエイジのかがみ!

—36歳にして、スプリントの自己記録を更新!
年齢を重ねるにつれ、トレーニングは“量”よりも“質”を重視するようになりました。例えば、筋肉量の40%を使っていたメニューを見直し、60%を使えるよう改善したり。昔はがむしゃらに鍛えていましたが、もう体力的にも精神的にも無理なので(笑)。効率良くパワーアップできるよう、結果を見ながらワンシーズンごとに見直しています。

自慢になってしまいますが…最近、スプリント(短い距離を走るトレーニング)で自己最高の9.1m/s(メーター・パー・セカンド)を打ち出すことに成功したんです。自慢になってしまいますが(笑)、うちのチームのウィングの選手より速いんですよ。この歳でパーソナルベストを更新できたのは、日々の研究と継続の結果。自分のことながら、誇らしいです!

—若手選手は“ライバル”ではなく“刺激”
今や、干支が一緒(一回り年下)の選手がバンバン活躍し始めている。彼らにタックルで倒されると…やっぱり複雑な気持ちですよね(笑)。悔しいけど、ライバル視したことはなくて。むしろ、どんどん成長してほしい!

そのためにも一緒にトレーニングを行い、見直せる点があればアドバイスしたり、適任だと思うコーチを引き合わせたり。彼らのサポートを通して、僕自身も刺激をもらえるんですよ。アグレッシブな姿勢など、(選手生活を)長く続ければ続けるほど、失ってしまうことってあるので。年齢を言い訳にして諦めていたことに、もう一度チャレンジしてみるきっかけをもらったことも少なくありません。

—プレーもリーダーシップも、トレンドが大事!
ベテランとなった今、常に心がけているのが、チームとしての目標は何か、それを達成するために何が足りていないか、何を強化するべきかを見極めること。そこから選手ひとりひとりのアティチュード(姿勢)、ゲームの質などを多角的に見直していき、ミーティングで共有しています。その際に気を付けているのが、若手の意見を吸い上げること。ある程度こちらでビジョンを提案しつつ、チーム全体が納得した決断を下せるのがベストだな、と。

ラグビーに限らず、以前の日本のスポーツ界はガチガチのトップダウンでした。それを否定するつもりはありませんが…今の若い子たちは、自分で計画を立ててプロモーションしていく能力にすごく長けているんですね。それを見て、若い頃の自分に欠けていたのは自分で考えて行動する能力だ!と気付いて。選手の潜在能力を引き出すためには、トップダウンは不利。上から意見を押し付けるのではなく、支え合い、ともに成長できる関係を目指しています。

また、ラグビーのプレースタイルも毎年変化している。海外の試合をこまめにチェックし、最新のテクニックやゲームの構成を学んでいます。何事においてもトレンドをしっかりキャッチして流れに乗ることが、自分自身の成長、そしてチームの勝利につながっていると実感しています。

—ラグビーを通して社会に貢献したい!
ラグビーを始めて20年以上が経ちますが、続けてきた理由は単純に“ハッピーになれる”から。僕自身を幸せにしてくれたラグビーは、きっと、もっともっとたくさんの人を幸せにできると感じるようになったんです。

自分が経験してきたこと、アスリート界で共有されていることを使って世の中をさらにいい方向に導いていきたい。で、今の世の中に足りないことは?と考えたときに“人と人のつながり”だと思いました。選手として余裕ができたこと、そして僕自身に子供ができ、両親が高齢になったことも大きな要因ですね。

—「ラグッパたいそう」誕生と、ラグビーブームのこれから
(ラグビーがメジャーな)国を訪れると、幅広い世代が一緒にラグビー観戦し、和気あいあいとコミュニケーションを取っていて。その光景を見るたび、素敵だな、と感動するんです。それを日本でも実現できれば最高ですが、まずはラグビーを身近に感じてもらう必要がある。そこで、ラグビーの動作を取り入れた「ラグッパたいそう」を生み出しました。

子供からご年配の方までが楽しめるよう、シンプルな動きに絞ったのがポイント。小学校や幼稚園、地域のイベントなどで披露するうちに、たくさんの方がホームグラウンドや試合を訪れてくださるようになりました。それまでの僕は堅物、こわもてな印象を抱かれることが多かったので、これじゃいかん!と。親しみやすいキャラクターに転換(笑)

イメージをガラッと変えることは大きなチャレンジでしたね。ラグビーファンが増えるという点ではポジティブですが、試合ではネガティブになりかねないので。でも、地域の方に“佐々木さん!昨日の勝利おめでとう!”と声を掛けていただくようになり、不安が吹っ飛びました。さすがにまだ、スタジアムで(ニックネームの)“みったーん!”と呼ばれる恥ずかしさには慣れませんが…(笑)

今後も活動の幅を広げつつ、多くの選手を巻き込んでいきたいともくろんでいます。ラグビーを通じて社会貢献することでラグビーの価値が上がるし、選手が関わることで選手の価値も上がる。ラグビーには“トライ&エラーを重ねて自らの生き方、幸せを確立していく”という素晴らしい人生哲学が隠れています。それを日本中に伝えるためにも、ラグビーブームはまだまだ終わらせられません!

佐々木隆道(ささき・たかみち)1983年10月30日生まれ、大阪府出身。ポジション:左フランカー、184cm/100kg。中学1年のときに友人に誘われ、ラグビーを始める。高校ラグビーの名門、啓光学園高では3年連続で"花園"(全国高校ラグビー大会)に出場し、2001-02年開催の81回大会で優勝。02年、早大進学。主将を務め、03年に大学選手権でチームを優勝へと導く。06年には日本選手権2回戦で社会人リーグのトヨタ自動車に勝利した。卒業後〜15年までサントリーサンゴリアスに在籍し、16年に現在所属する日野レッドドルフィンズに移籍。