【日本版「足病医」が足のトラブル解決】#14

 下肢リンパ浮腫の患者さんに欠かせないのが「弾性ストッキング」の着用です。これは通常のストッキングとは異なり、足を圧迫することを目的に特殊な編み方で作られた医療用のストッキングで、外側から圧を加えることでリンパの滞りを改善し、むくみを軽減させる効果があります。

 弾性ストッキングといえば、市販の「メディキュット」のような着圧ソックスをイメージされやすく、実際、ご自身でそれらを購入して、はかれている患者さんも少なくありません。

 しかし、リンパ浮腫の場合、むくみは足だけにとどまらず下腹部やお尻まで広がることがあります。ハイソックスや太ももまでの長さのストッキングでは、上部が輪のようになってグッと締め付けられて皮膚に食い込み、その下の部分にリンパ液がたまって、むくみはさらに悪化する恐れがあります。ですから、リンパ浮腫の方はウエストの高さで止まるパンティーストッキングや、片足ベルト付きパンティーストッキングの着用が望まれます。

 弾性ストッキングでは、圧迫の強さも非常に重要です。弱圧、中圧、強圧の3段階に分けられ、リンパ浮腫が重症になるにつれて、圧迫力の強い弾性ストッキングが選ばれます。圧迫力が強いほど伸びにくく、通常のストッキングのように簡単にはくのが難しくなります。

 つま先の滑りを良くするフットスリップやスライダーという装着補助具を使ったり、また、しっかりと腰までストッキングを持ち上げられるようゴム手袋を用いたりして、自宅でも毎日着用できるよう外来受診の時に練習を行います。

 弾性ストッキングは着用していると少しずつ伸びてしまいます。そのため「硬くてはきにくい」と思っていても、圧迫力が低下していきます。また、価格もパンティーストッキングタイプは約2万円〜、片足タイプは1万円〜と、気軽に買い替えられる値段でもありません。そこで、厚労省はリンパ浮腫の患者さんを対象に、医師の指導のもと購入された弾性ストッキングに対して半年ごとに年に2回、療養費の支給を行っています。多くの患者さんはこの制度を利用して半年をめどに新調されています。

 リンパ浮腫は、一度発症すると完治するのが難しい病気ですが、早期に発見し適切な治療を受けることでむくみの悪化を防げます。いつもと違ったむくみがあれば、放置せずに、むくみ外来を受診してください。

▽松原忍(まつばら・しのぶ)順天堂大学再生医学講座 形成外科。琉球大学卒業後、同大学胸部心臓血管外科教室へ入局。末梢血管疾患の診療に携わった後、横浜市立大学形成外科でリンパ浮腫に対する手術法を学ぶ。2020年から順天堂医院足の疾患センターでリンパ浮腫診療を開始。24年4月から現職。