【高齢者の正しいクスリとの付き合い方】

 読者の中には、血をサラサラにするクスリを使っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。ただ、一言で「血をサラサラにするクスリ」といってもいくつか種類があり、それぞれに使い方や注意点が異なります。

 血をサラサラにするクスリは、血小板の働きを抑える「抗血小板薬」と、血液の凝固に作用する「抗凝固薬」に大別されます。これらのクスリは血の塊=血栓ができにくくする作用を持っていて、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞、塞栓症といった血栓で血管が詰まることにより発症する病気の治療・予防に使われます。

 こうした血をサラサラにするクスリを使う場合、直感的には「どこの血管が詰まると問題なのか?」と考えるかもしれませんが、実際は「どこでできる血栓が問題なのか?」を考えなければなりません。

 抗血小板薬は、主に動脈でできる血栓を予防する目的で使用されます。多くの方が聞かれたことがあるように、高齢になるとさまざまな要因により動脈硬化が進みます。動脈硬化は「古くなってパキパキになったホースのようなもの」と考えるとわかりやすいと思います。新しいホースは力を加えても柔軟に変形しますが、古いホースは力を加えるとひび割れてしまい水漏れすることもあります。血管も同様で、動脈硬化が進むと柔軟性が失われてしまいます。

 動脈の血管は簡単に破れないよう二層構造になっています。動脈硬化によって血管の層がひび割れると、体は生命の危機を回避するためにそこをなんとか補修しようとします。ひび割れたところからコラーゲンが出てきて、そこに血小板が接触することで「動脈が破れかけている!」というシグナルが発せられます。そのシグナルは血小板同士を結びつける効果をもっているため、多くの血小板が集まって塊、つまり血栓を作るのです。

 また、動脈硬化が進んだ血管は内径が狭くなります。そうした狭くなったところに血栓が流れてくると血管が詰まってしまう可能性があり、詰まると狭心症や心筋梗塞、脳梗塞などの原因になります。

 抗血小板薬は、そういった状況を予防するために用いられます。その多くは、先ほどお話しした血小板同士を結びつける効果を持つシグナルを止めることで効果を発揮します。シグナルにはいくつか種類があるため、抗血小板薬にも複数の種類があります。

 心筋梗塞や脳梗塞を発症した後、多くは抗血小板薬を2種類併用しますが、異なる種類のシグナルを止める抗血小板薬が併用されます。2種類併用するのは一定期間ですが、その後も1種類は服用し続けなければならない場合がほとんどです。

 次回は抗血小板薬を使う際の注意点についてお話しします。

(東敬一朗/石川県・金沢市「浅ノ川総合病院」薬剤部主任。薬剤師)