「開幕早々からリベンジするチャンスが来たので、自分は『良かったな』『ラッキーだな』という気持ちです。あの日が本当に忘れられなくて、今でも毎日考えるぐらい悔しいので、絶対にリベンジしたいなという気持ちがありますね」。

今季の市立船橋高校のキャプテンを務めるギマラエス・ニコラスが口にした『あの日』のことを、彼らが忘れるはずがない。2024年1月6日。国立競技場で行われた高校選手権準決勝。ファイナル進出を巡り、青森山田高校と対峙した一戦は激闘に。先制を許した市立船橋は、今季の10番を背負う久保原心優のゴールで追い付き、勝敗の行方はPK戦へともつれ込む。

3-2で迎えた青森山田の4人目のキックを、ギマラエス・ニコラスがファインセーブで弾き出す。だが、市立船橋の4人目として登場した岡部タリクカナイ颯斗のPKも、相手GKがストップ。直後の青森山田の5人目がゴールネットを揺らし、勝負あり。決勝を目前にして、青き勇者の進撃は終焉を突き付けられることになった。

今シーズンの市立船橋は大きくメンバーが入れ替わった。郡司璃来(清水エスパルス)や太田隼剛(桐蔭横浜大)といった主力が卒業し、レギュラーとしてプレーしていたのはギマラエス・ニコラスと久保原の2人のみ。波多秀吾監督も「去年のチームのように個々の力があるわけではないので、チーム全体でということはより意識してやっているところですね」と言及。プレシーズンはグループとしての総力を高めてきた。

守備の中心は、2年時から不動の守護神を託されてきたギマラエス・ニコラス。「試合の中でのプレッシャーや焦りはほぼ感じずに、頭も冷静な状態でプレーできるようになってきました」と重ねた実戦経験から来る落ち着きが、チームに安心感をもたらしている。

キャプテン就任に当たって、前任の太田からもアドバイスをもらったという。「隼剛さんが『自分らしくやれ』と言ってくれて、自分はチームの中心になって引っ張るというよりも、チームを後ろから押し上げていこうかなと思っています」。船橋招待の試合でも積極的に後ろから声を出すシーンが目立っており、リーダーの自覚も頼もしい。

もう1人のキーマンには岡部を挙げたい。昨シーズンの途中からセンターバックへとコンバートされ、選手権ではスタメンも経験。市立船橋の守備の中心選手に託される伝統の“5番”を付けた今季は、「波多さんにも『5番を付けるんだから、もっとやらないといけない』とは言われているので、『もっとやっていかないといけない』と自分でも思っています」とさらなる進化を誓っている。

前述したようにPK失敗に泣いた3か月前の光景は、脳裏に焼き付いている。「なんか『運命的だな』と思っています。注目もされると思いますけど、だからこそ本当に何が何でも負けたくないので、人生で一番大事ぐらいの試合だと自分では思っています」。ディフェンスリーダーとして無失点はマスト。もちろんゴールも狙いつつ、一番大事な勝利への渇望感に、岡部が誰よりもあふれていることは言うまでもないだろう。

プレミアリーグファイナルを劇的な逆転勝利で制し、勢いそのままに高校選手権でも優勝。高校年代二冠を達成した昨シーズンの青森山田。その歓喜を知る選手の大半が卒業した今季は、「誰が出るかわからないという危機感が、良い方向に行ってくれればいいなと思います」と正木昌宣監督も話しているように、プレシーズンではいろいろな選手に実戦経験を積ませつつ、戦力の幅を広げる作業に取り組んできた。

新チームのキャプテンと10番を任されたのは谷川勇獅だ。2年時だった昨年度もボランチのレギュラーとして活躍しながら、11月に無念の負傷。二冠はサブメンバーとして味わった。「チームは勝ったんですけど、個人としては悔しい想いをしたので、今年はシーズンを通して戦える身体を作っています」と食事量の増加や筋トレにも高い意識で向き合っている。

『青森山田の10番でキャプテン』と言えば、3年前の松木玖生(FC東京)が思い浮かぶが、谷川ももちろん“大先輩”の存在はイメージしているものの、必要以上に背負い込むつもりはない。「ピッチ上で味方から信頼してもらうことが大事だと思うので、守備では一番走って、泥臭くやりたいです」。できることを100パーセントでやり抜く真摯な姿勢で、常勝軍団を牽引する。

攻守の軸としての躍動が期待されるのが、ボランチを主戦場に置く山口元幹だ。178センチのサイズ感もありながら、プレースキッカーを担当するなど、正確なキック精度にも特徴が。「ボランチでもゴールを決めたり、縦パスやロングキックでチャンスメイクできる選手になりたい」と攻撃への意欲も隠さない。

昨シーズンは選手権の登録メンバーにも入り、日本一へと駆け上がる過程も経験しており、「優勝するチームの雰囲気や空気感は知っているので、もっと自分がサッカーのところもピッチ外でもそういう雰囲気を作っていきたいですね」と主力の自覚も十分。昨季のキーマン・菅澤凱(国士舘大)から6番も引き継ぎ、連覇を期すチームを支える覚悟を決めている。

プレミアリーグでも、高校選手権でも、さらにインターハイでも、明確に頂点を獲りに行く両チームが迎えた『日本一へのリスタート』。国立競技場での90分間以来となる、お互いが絶対に負けたくない『3か月ぶりのリターンマッチ』から目が離せない。

文:土屋雅史