アスレティック・クラブがコパ・デルレイで優勝した。

日本では「アスレティック・ビルバオ」という表記が一般的で私も普段はそれを使っているのだが、今回はお祝いでもあるしクラブ関係者が好む表記「アスレティック・クラブ」を使いたい。

キャプテンのムニアインやウィリアムス兄弟が40年ぶりの優勝を喜んでいるのを見て、こちらもうれしくなった。久保建英のいるソシエダを第2レグで圧倒して決勝に進出したマジョルカも良かったが、バルセロナを退け、レアル・マドリーを破ったアトレティコ・マドリーを退けたアスレティックがより王者に相応しかった。

優勝を決めたPK戦で、最後にネットを揺らしたゴールのある応援席上部には「Unique in the world」というスローガンが掲げられていた。「世界で唯一のクラブ」というアピールだ。

サッカー好きで、スペインのレベルの高さを知る者で、アスレティックに共感しない者はいないだろう。世界唯一なのは、「バスク地方で生まれ、または育った者でチームを構成する」というフィロソフィーで、プロで立派に通用しタイトルまで獲ってしまうレベルを維持していることだ。アスレティックは100年以上の歴史を持つリーガで2部落ちの経験がない。そんなクラブは他にはレアル・マドリーとバルセロナしかない。

バスク地方(正確には「歴史的バスク」)の人口は310万人ほど。静岡県(360万人)よりもちょっと少なく茨城県(280万人)よりもちょっと多い。

ボスマン判決で欧州に国境がなくなり、グローバル化した世界でタレントの流動性が高まっている中、外国人はおろか同国人も排除して“県民”だけでチームを作る、というのは、強化の足枷でしかない。アスレティックにも、かつて「生まれ」だけだったのを「育ち」にまで拡大解釈した歴史がある。また、競争力のレベルも長期戦で真に戦力の充実度が問われるリーグ戦ではなく、短期決戦のカップ戦に留まっているのも確かだ。

それでも、静岡代表レベル、茨城代表レベルでチームを作り、世界一、二を争うクラブと同等の競争力を維持する。その育成のメリットたるや「素晴らしい」以外の言葉がない。

おらが県の誇りゆえにファンとの距離は近い。決勝会場のセビージャ市には7万人のアスレティが集まった、という。知り合いの知り合いにはアスレティックでプレーした人がいるレベルの親近感。グローバル化したビッグクラブのスタジアムにはコアなファンもそうでない人も混在しているが、アスレティックの本拠地新サンマメスにはベレー帽をかぶったユニフォーム姿のおっさんが目立つ。地元出身者で他のクラブのファンを見つけるのは極めて難しい。

練習場も開放的だ。世界的なクラブは練習非公開こそがプロのあかしであるがごとく振る舞っているが、県民のクラブが県民に練習を見せないなんて矛盾している。

トップチームの練習こそ非公開が多くなったが、それ以外のチームは女子プロチームを含めて完全に公開している。中には警備員もおらず、選手たちが普通に横を歩いている。練習後にはサインや写真もねだれる。練習施設「レサマ」はビルバオ市内から電車に揺られて30分ほど。朝一番に男子プロの練習を見て、その後は次々と訪れる下部組織の練習を見ながら、併設されているカフェで下部組織の選手に交じってお昼ご飯を食べて一日過ごす、なんて夢のようなことも可能だ。

ラリーガにはまだこんなクラブが残っている。それは私のようなスペインサッカーファンにとっても誇りである。

文:木村浩嗣