200戦の内訳は115勝43分42敗、勝率57.5%。優勝4回。勝利数、優勝回数ともに史上最多だ。チャンピオンズリーグで、である。

カルロ・アンチェロッティ監督は突出している。CLで200試合以上の指揮を執った経験があるのは彼ひとりだ。2位のサー・アレックス・ファーガソンですら190試合。現役最多のジョゼップ・グアルディオラ監督は170試合に過ぎない。

ACミランやASローマ、イタリア代表でクレバーなMFとして玄人筋の評価が高かったアンチェロッティの監督キャリアは、1995年のレッジャーナから始まった。以降、パルマ、ユベントス、ミラン、チェルシー、パリ・サンジェルマン、レアル・マドリー、バイエルン、ナポリ、エヴァートンを率い、2021年夏にマドリーへ復帰している。

この30年、ほぼほぼ切れ目なくオファーが届き、ミランでセリエAを、チェルシーでプレミアリーグ、パリSGでリーグ1、マドリーでラ・リーガ、バイエルンではブンデスリーガを制している。そう、アンチェロッティは世界でただひとり、ヨーロッパ5大リーグの優勝を経験した名将だ。

さて、手駒の長所を最大限に見いだす術に長けたアンチェロティは、サー・アレックスも高く評価していた。これまでに二度、接触を試みようとした経緯がある。

一度目は退任した12−13シーズンだ。サー・アレックスは当時フリーだったグアルディオラ、ドルトムントの監督を務めていたユルゲン・クロップ、マドリーを率いていたジョゼ・モウリーニョとともに、アンチェロティを上層部に推薦している。だが、なぜかデイヴィッド・モイーズ(当時エヴァートン)が選ばれた。ユナイテッドの悲劇が始まる。

二度目は22年春だった。すでに上層部はエリク・テンハフの招聘を決めていたが、「選手たちが自信を失っているように見える。全体のバランスを整えるにはアンチェロッティが適任だ」と、何度かグレイザー・ファミリーに進言したとの情報もある。

アメリカ人のオーナーがサー・アレックスの意見に耳を傾けていれば、ユナイテッドは世界のトップランクを維持していたかもしれない。

マドリーとの契約は26年6月までだ。以降のプランは完全に白紙で、サウジアラビアやアメリカから巨額のオファーが届いても受けない、との声がアンチェロッティの周辺から聞こえてきた。

母国イタリア代表の監督なら引き受けるのだろうか。今度こそユナイテッドが公式オファーを届けるのか。6月10日で65歳。メガクラブのプレッシャーを楽しむのは、マドリーが最後だろうか。

一昨シーズンのチャンピオンズリーグで、アンチェロッティのマドリーは準々決勝からチェルシー、マンチェスター・シティ、リヴァプールのプレミアリーグ勢を三連破してヨーロッパのテッペンに立った。

優勝後のセレモニーではエドゥアルド・カマヴィンガ、ヴィニシウス・ジュニオール、ロドリゴとともにダンスに興じていた。

「ボス、やるじゃないすか」

若者たちがノリノリのアンチェロッティに表情を崩した。

今シーズンのCLはどのような結末を迎えるのだろうか。準々決勝第一レグは、本拠サンチャゴ・バルナベウで3‐3の引分け。4月17日、シティの本拠エティハドに乗り込む。

文:粕谷秀樹