主(ぬし)くんは、外出したら必ず猫に出会うという猫の愛護団体NPO法人ねこけんのボランティアATさんに保護された。もう既に高齢で、公園のベンチでゴロンと横になっていたという。

「そっと撫でてみたのですが、全然嫌がらず、洗濯ネットに入れてすぐに保護できました。病院で初期治療を受けて連れて帰りました」

「主(ぬし)」という仮名をつけてもらってシャンプーも終えた主くん。晴れて公園の野良猫から保護猫になった。室内での暮らしにもすぐに慣れ、他の猫やフェレットとの生活はお気に召したようだった。

穏やかな日はそう長くは続かなかった

しかし保護当時から高齢だったぬしくん。残されていた時間は、そう長くなかった。

「鼻から出血しました。急いで病院へ駆け込んだら、『腫瘍のような物が鼻の中にある』ことが分かりました。高齢のぬしがその腫瘍の摘出手術に耐えられるのか、摘出したところで、その後の検査の日々に耐えられるのか?などの疑問が。嫌がるぬしを連れて治療に行くたびに、悩みに悩みました」

ATさんは、手術のような積極的な治療ではなく、延命にしかならないかもしれないが、投薬治療を選んだ。

「ぬしの残された時間と真正面から向き合い、最後まで寄り添う覚悟をしました。ぬしはしばらく幸せと笑顔に満ちた時を送ってくれました」

2020年3月13日、ぬしくんは静かに息を引き取った。

ぬしくんがいつから公園暮らしをしていたのか、元は飼い猫だったのか捨て猫だったのか、若い頃はどんな生活をしていたのか、それが幸せだったのか辛いものだったのか。それはぬしくんにしか分からない。

しかし、ぬしくんはATさんに出会って幸運だったこと。ATさんと暮らして幸せだったことは紛れもない事実だ。ATさんは、「ぬしにしてあげたいこと余っちゃったから、今度会う時まで取っておく」という。

(まいどなニュース特約・渡辺 陽)