半導体製造工程の「日陰」のような存在だった後工程の重要性が高まっている。これまで半導体の性能を決めてきた前工程の微細化に限界が見え始めているからだ。そこでチップの性能を高めるため、複数のチップを一つのチップのように積層するなどの「先端パッケージング技術」の開発が進んでいる。ラピダス(東京都千代田区)なども開発に乗り出しており、半導体業界の一大トレンドになっている。(小林健人)

4月、先端半導体の量産を目指すラピダスが経済産業省から最大5900億円の支援を受け、後工程の研究開発に乗り出すと発表した。5900億円のうち535億円を活用。セイコーエプソンの千歳事務所(北海道千歳市)の一部を使う形で後工程の開発を進める計画だ。記者会見でラピダスの小池淳義社長は「前工程だけでなく、後工程、設計支援。この三位一体となったビジネスモデルの実現が重要だ」と後工程の重要性を強調した。前工程と後工程で最先端技術の獲得を目指す。

ラピダスが開発に取り組む後工程技術

半導体製造工程はシリコンウエハーに回路を形成する「前工程」、そのウエハーからチップに切り分ける「後工程」に分けられる。これまでは、回路を微細化するなど前工程の方が半導体の性能を高める上で重要度が高かった。ただ、回路の微細化に限界が見え、前工程だけで半導体の性能を高めることが難しくなってきた。そこで従来単一のチップに集積していたものを、複数チップに個片化し相互接続する「チップレット」やチップを横方向ではなく縦方向に積層する「3次元実装」などの後工程技術で半導体の性能を高める動きが出ている。

半導体受託生産で世界トップシェアを誇る台湾積体電路製造(TSMC)や韓国のサムスン電子、米インテルも技術開発に取り組んでいる。特にTSMCは電子回路の設計自動化(EDA)ソフトウエアや半導体IP(回路設計)、半導体後工程請負業(OSAT)などのプレーヤーとアライアンスを設立している。後工程の分野でも各分野のプレーヤーを巻き込んで、エコシステムの形成を狙う。

当然ラピダスが受注を目指す人工知能(AI)向けのように高性能な半導体では、前工程に加え、チップレットなどの後工程が必要になる。

難易度高い中継部に新手法

先端パッケージングの実現に向け、特に重要なのがチップと基板をつなぐ中継部分の「インターポーザー」だ。ラピダスはシリコン製ではなく、600ミリメートル角のパネルを使ったインターポーザーの実用化を目指す。シリコンに比べ、取れるインターポーザーの枚数が増えるためコストダウンにつながるという。東京工業大学で後工程技術を研究する栗田洋一郎特任教授は「パネルパッケージは微細な配線加工が難しいこともあり、ローエンドの分野でしか使われてこなかったが、大規模なチップレットへの対応として各社が再度、研究開発に取り組んでいる状況だ」と説明する。

インターポーザー取れ数の比較

一方で栗田特任教授は「(インターポーザーの上に)9層から10層のチップが重なると、パネルが反ってきてしまう。生産技術や歩留まりの観点から難易度は高い」と指摘する。また、こうした課題を解決しながら、チップレット向けに配線のファインピッチの対応も必要になる。

そこで栗田特任教授は別の後工程技術を開発する。微小な金属柱でチップレットとシリコンブリッジをつなぐ「ピラー・サスペンディド・ブリッジ」(PSB)構造だ。インターポーザーよりもシンプルな構造でチップレット同士や外部との接続を確保する。配線のファインピッチや大規模な集積システムを作ることができる点も強みになる。

研究開発を進めるため、2022年に大阪大学や東北大学のほか、OSATのアオイ電子やアルバック、住友ベークライトなど数十社の企業が参画するコンソーシアムを設立した。栗田特任教授は「将来はパネルインターポーザーとブリッジが先端パッケージング技術の実用化を争うライバルになるだろう」と展望する。ラピダスの発表資料でも、ブリッジを開発する旨の記載があり、インターポーザーと「両にらみ」の状況であることが伺える。

27年量産、歩留まり向上が生命線に

技術開発を乗り越えた先には、量産化とビジネス展開を進める必要がある。ラピダスは多品種少量生産を前提にしたビジネスを掲げる。このため歩留まりの向上は、同社の生命線になる。

また、少量生産かつ先端パッケージング技術を求める顧客を確保する必要もある。OSAT大手の米アムコーテクノロジー日本法人の川島知浩社長は「(現時点で)日本の顧客に先端パッケージングのニーズはない。日本でシェアが高い自動車向けにニーズが出てくれば、(先端パッケージングの)投資という話が出てくるだろう」と投資判断について話す。ファウンドリー同様、OSATも設備投資の規模が競争力に直結する関係上、顧客の確保なくして投資判断はあり得ない。実際、TSMCには画像処理半導体(GPU)でシェアを握る米エヌビディアという需要を確保している。また、大口の顧客の存在が素材などのサプライチェーン(供給網)を巻き込んだエコシステム形成に役立っている。

川島代表は「日本企業の素材や後工程装置など、サプライチェーンの品質は高い」と話す。日本企業の優位性を生かすためにも、ラピダスには前工程同様に、後工程でも技術開発と量産化、顧客開拓の同時進行でクリアすることが求められる。27年の量産開始に向け、超えるべき課題は多い。


【関連記事】 半導体パッケージ基板で存在感を増す印刷会社