「令和の薬害事件」になるのか──。

 製薬、食品業界から、こんな声が漏れ始めた。小林製薬(大阪市)の紅麹を含んだ「機能性表示食品」による健康被害が相次いでいる問題。これまでの調査によると、同社は紅麹を作る過程でできることがある「シトリニン」という毒素を疑ったものの、「シトリニン」は検出されず、紅麹原料の中の「未知の成分」が腎疾患の原因となった可能性が否定できないという。

 死者や入院患者が出ているにも関わらず、未だに原因物質の特定に至っていないのだから状況は深刻だろう。原因が分からなければ、入院患者らの治療方法も見つからないからだ。

 それにしても、大手ともいえる小林製薬がなぜ、「紅麹」を安全と判断したのだろうか。

■安全性、機能性を評価するために採択した文献は1件

「機能性表示食品」は、安全性や機能性などの根拠となる研究論文や臨床試験を消費者庁に届けることで商品の販売が可能だ。同庁が公開している「機能性表示食品」の「科学的根拠等に関する基本情報」(一般消費者向け)を確認すると、小林製薬が届け出た「機能性関与成分名 米紅麹ポリケチド」は「安全性の評価方法」として「喫食実績の評価により、十分な安全性を確認している」とあり、こう書いている。

「食経験の評価 当該製品と製品名のみ異なる同一処方の製品を2018年から20万食以上販売しているが、本製品が原因と示唆される重篤な健康被害は報告されていない。また、当該製品と類似する製品の食経験として、小林製薬株式会社製の米紅麹原料の販売実績から考察を行った」

「米紅麹原料は2007年よりサプリメントの原料として販売を開始し、これまでに約17.5トンを国内外に流通させてきた(2020年6月現在)。また、この米紅麹原料の1日あたりの推奨量を100mg(米紅麹ポリケチドとして2mg)として販売してきたことから、これまでに販売してきた約17.5トンの米紅麹原料は約1.75億食分に相当すると考えられる。これまでに米紅麹原料を含有したサプリメント等において健康被害は報告されていない」

 つまり同社は、2007年から米麹を原料としたサプリを少なくとも17.5トンを販売し、健康被害はなかったというのだ。それがなぜ、今になって健康被害が続出したのか。

 そして安全性については、「最終製品ではなく、機能性関与成分に関する研究レビューで、機能性を評価している」とあり、「データベースより収集した文献は69報あり、スクリーニングにより最終的に1報の採択となった。この文献では、米紅麹ポリケチド摂取群は、プラセボ摂取群と比べてLDL(悪玉)コレステロール値が有意に低下した。この時の米紅麹ポリケチドの量は1日あたり2mg、または4mgである。また米紅麹ポリケチド摂取群に体調不良などの副作用は生じなかった。このことから、健常者が米紅麹ポリケチドを1日当たり2mg〜4mgを適切に摂取することで、高めのLDL(悪玉)コレステロール値が低下することが示唆された」

 安全性や機能性を示す根拠とした文献が1件とは何とも心もとないが、その「科学的根拠の質」についてはこうある。

「採択文献が1報であったため、出版バイアスなどの限界が考えられる。また、参加者数が少ないことは否めない。ただし、査読付き文献であること、また疑問点などは全て著者に直接確認したことから、文献の質に大きな問題はなく、科学的根拠としては十分と判断した」

 果たして「科学的根拠としては十分」だったのか。「紅麹」自体に問題はないといった見解や、昨秋以降の製品に健康被害が集中しているとの報道もあり、まだまだ真相は分からない。引き続き調査、検証が欠かせない。