【65歳アルバイトの現実】#19

 オシャレなカフェ編

  ◇  ◇  ◇

「場違いなところに来てしまった」──。店のドアを開いた瞬間たじろいでしまった。そこは若い女性客ばかりのオシャレなカフェ。60代の私には不似合いに思える。

 求人サイトで「下町のカフェです」という文言を見て応募したのは今年の1月。店長の有田さん(仮名)から「個人経営の店です。面接にどうぞ」との連絡を受けた。下町の古びた喫茶店をイメージしていたら、大型ガラス窓の開放的な雰囲気。客は若い女性ばかりで、20代前半の女性スタッフ2人はいずれも超美人だ。オジサンは気後れしてしまう。

「人手不足で困ってるんです」

 狭い事務室で有田さんはこう切り出した。飲み物のほか軽食を出すカフェで、周辺に同種の店がないため客はひっきりなしに来る。近くのイベント会場で催し物があるときは1日に200人以上の来客があるそうだ。

「学生数人がバイトとして在籍し、毎日2人が働いています。私を入れて3人体制。お客さんが200人以上のときは派遣会社からも応援に来てもらいます。私はお休みも取れません」

 それにしても、この店に60代半ばの私は不釣り合いに思えるが……。

「実は今回は60代の人を採用したいのです」と有田さんはきっぱり。どういうことか?

「バイトの学生たちは遊び盛りで土日勤務を敬遠する。勤務の3時間前に“体調が悪いので休ませて”と連絡してくるケースも少なくありません。その点、60代の方なら約束どおり勤務してくれるはずだから安心です」

 営業時間は午前9時〜午後7時で時給は1200円。「土日に6時間以上働いてほしい」という。仕事は飲み物や料理を作り、客席に運ぶ。味付けは有田さんが作ったレシピに従えばいい。重い荷物を運ぶなどの過重労働はない。

 店はセルフレジを導入しているため会計の手間はない。ただし機械がトラブルを起こしたらシステムを更新して元の状態に戻さなければならない。

■若者の問題点

 若者にはいくつか問題があるそうだ。真面目そうな子なので採用しても、半年もすると仕事中にスタッフ同士で世間話をするようになる。話に夢中になって客の要望に気づかず放置してしまうことも。料理を運んで料理名を告げ「ごゆっくりどうぞ」と言葉を添えるよう指導しているが、それもおざなりになってくる。

 そうなると口コミサイトに悪評を書かれてしまう。私のような60代なら彼らへの指導を任せられると期待しているわけだ。

「コロナが収束して、料理経験者が激減しました」

 あれこれ質問していたら、有田さんはこう教えてくれた。新型コロナの前は「料理人募集」に応募してくる人がけっこういた。ところがコロナの蔓延で閉店する飲食店が増え、多くの料理人が別業種に鞍替えした。そのため料理経験者の絶対数が減り、今や業界は腕のいいコックや板前の争奪戦。「料理人募集 月給40万円以上」の求人があるのはそのせいだという。

 また、女子学生などはスターバックスのような有名店で働きたがる。

「必然的にうちのような個人経営のカフェは敬遠され、人手不足に拍車がかかるんです」 (つづく)

(林山翔平)