PRESIDENT Online 掲載

2023年にJRAジョッキーを引退した福永祐一氏は現役時代、日本ダービーに18回挑戦して勝利を上げられずにいた。初優勝を飾った2018年の日本ダービーでは何が起きていたのか。新刊『俯瞰する力 自分と向き合い進化し続けた27年間の記録』(KADOKAWA)から一部をお届けする――。

■通算2000勝を達成して「残るジョッキー人生を楽しもう」

エピファネイアでグッと勝利が近づいたかのように感じた日本ダービーだが、その後も騎乗機会が毎年あったにもかかわらず、なかなか勝ち負けまでは持っていけずにいた。

それでも、「ダービーなんて価値がない」とうそぶいていた頃とは違い、「一生ダービーを勝てないかも」と思う日もあれば、「勝たなければいけない」と思う日もあったり。日々揺れ動く感情の中で、何事にも執着することがない自分にしては珍しく、ダービーへの“執着”のようなものを自覚していた。

だが2017年、ある一つの出来事をきっかけに、心境に大きな変化があった。41歳になる年で、ジョッキー人生でいえば、とうの昔に折り返し地点を過ぎていた。残りのジョッキー人生は限られている──そう思ったとき、「ジョッキーにしか味わえないプレッシャーや緊張感を、もっと楽しまなければ損だ」と本気で思ったのだ。

ダービーやジャパンカップ、有馬記念といったビッグレースにも、あと何回乗れるかわからない。だったら、あの独特な緊張感をとことん楽しもうと。

そう思うに至った出来事とは、中央競馬史上8人目となる通算2000勝を達成したこと。1000勝はトップジョッキーの証として若い頃から目指していた数字だが、2000勝に関しては、正直、達成できるとは思っていなかった。だから、達成感というよりも「ここまで来たか」という充足感が大きく、そこからのジョッキー人生を見つめ直すには十分な出来事だった。