プロボクシングの4大世界戦(6日・東京ドーム)の前日計量が5日、会場となる東京ドームに隣接しているホテルで行われ、出場8選手全員が一発でパスした。スーパーバンタム級の4団体統一王者、井上尚弥(31、大橋)に挑戦する元世界2階級制覇王者、ルイス・ネリ(29、メキシコ)が体重を落とせるかどうかが焦点だったが、500グラムアンダーの54.8キロでクリア、井上も100グラムアンダーでパスして、マイク・タイソンの世界戦以来、34年ぶりとなる東京ドーム決戦の目玉カードが成立した。だが、6年前に体重超過の愚挙に世界戦を台無しにされていた元WBC世界バンタム級王者の山中慎介氏は、ネリの大幅アンダーに不快感を示し、大橋秀行会長は、ルールミーティングで持参してきた米国製のグローブから井上が使用する日本製グローブへの変更を急きょ求めてきたネリの態度に「よくわからない」と不信感を隠さなかった。

 ネリ「オレは嫌われものでいい」

 やっぱりネリは“悪童”だった。
過去に2度体重超過を犯す“前科”のあるネリの計量が注目されていたが、正式な計量時間の20分前に計量器に乗りクリアしたことを確認すると両手でファイティングポーズをとって喜びを示し、本番では、なんと55.34キロのリミットを500グラムも下回る54.8キロでパスした。
計量会場には、2018年の世界戦で確信犯的に2.25キロもの体重超過を犯され、当日の体重に制限をつけた上で、試合を実施して2回TKO負けを喫した山中氏の姿もあった。山中氏は「500アンダーって…ある意味、ふざけてますよね。やれば落とせるってことじゃないですか?」と憮然とした顔で不快感を示した。3月6日に行われたカード発表会見では、直接、謝罪を受けたが、それも偽りの謝罪のように思えてくる。
井上は500アンダーについては「どうなんですかね。10時から仮計量ができたので、その時点で計っているはずなんで。余裕じゃないんですか。ちゃんとしっかり準備して管理すれば」と語り、試合が成立したことに対しては、「成立するでしょう、このビッグイベントで過去最高のファイトマネーをもらうだろうしね。しっかりくるだろうというのがあったので、そこに対する心配はなかった」と受け流した。
ネリは、すぐさまスポーツ飲料とコーラをがぶ飲みし、待機スペースでケーキを2個と缶詰の桃にむしゃぶりつき、スタバのフタベチーノの上にのっかっている甘いクリームを嬉しそうに舐めていたという。
ルールミーティングで、ネリは、さらに仰天の行動に出た。
グローブチェックの際に井上が使用する予定の日本製ウイニング社のグローブに手を入れて不正がないかを確認したが、「こっちの方が小さく見える」と急遽、持参した米国製グラント社のグローブとの交換を要求したのだ。
立ち合ったJBCの安河内剛事務局長は「自分たちが持ってきたグラントのグローブを大きく感じたようで、井上選手のグローブをチェックした時に、よさげだな、こっちが小さいなと感じたみたいです。今まで見たことがないケースですね」と説明。
JBCは予備のグローブとして用意していた青のウイニング社のグローブを提供したが、大橋会長も「よくわからないですね」と、その異様な行動に不信感を隠さなかった。
関係者によるとわざわざメキシコ国旗のカラーに塗り替えてきたグラント社のグローブは、見るからに大きくごつく感じたという。
実は、2018年の山中氏との再戦時にも、グローブチェックの際にウイニング社のグローブが気に入り、急きょ、変更した前例があった。今回も最初からウイニング社のグローブを用意すればいいものの、なんとも身勝手なハプニングだった。
だが、同条件になっただけで試合にはなんら影響はない。それだけネリが神経過敏になっているということの証拠だろう。ネリは、計量後のインタビューを拒否。トレーナーが「ファイン、ファイン(調子はいい)」とだけ繰り返した。

  ただ海外のメディアの取材は何件か受け「オレはここでは嫌われものでいい。オレがいなければ、この試合は成立しなかったんだ。たとえブーイングを受けようと何も気にならない。それを楽しむし、勝つのはオレ」と豪語したという。
井上は、戦闘モードに切り替わっていた。
フェイスオフでは、約1センチの超接近。JBCのスタッフが間に入るまで20秒間、目をそらさなかった。
「明日やるだけなんで。すでに駆け引きは始まっている」
殺気が充満していた。
短い囲み会見で、ネリの体格についての印象を聞かれでも「別に感想はない 。55.34キロまで落とすかどうかで。あとはリカバリー次第」と多くは語らなかった。
スーパーバンタム級に上げて3試合目。
「調整面では、もう3回目ってのもあるし、なんとなくつかんできた。フルトン戦もタパレス戦も別にリングの上での支障は全くなかった」
何ひとつ不安材料はない。
試合前に井上にひとつだけ聞いておきたかったことがあった。
ネリは事前のインタビューで「井上はこの試合を受けるべきではなかったと思う。井上はオレに勝っても何も得るものはない。むしろ失うものばかりだ。オレには失うもの何もない」と語り、プレッシャーがのしかかる井上とのメンタリティの違いが勝敗を分けるポイントになると示唆した。
チケットの99%が売れ、4万人を超えることが予想される歴史的リングに立つことは井上の大きなモチベーションに変わっているが、裏を返せば、初めて味わうプレッシャーになるのではないか。だが、そのメンタリティの違いが試合に与える影響をモンスターは、こう一蹴した。
「それに関しては何も思わない。背負うものがある、ない人間の差はないと思う。ネリに失うものがないから強いのかっていうと、別にそうではない。自分にはベルトが4本あり、何もかけていないネリの気持ちの方がどうかと言ったら、そこがこの試合に出ていたりすることはまったくない」
会見の最後。メディアの輪から出ていこうとした際に「意気込みを?」と聞かれた4団体王者は笑いながら、「今聞いてどうするんですか?やるしかないっしょ!」と大声を張り上げてメディアの爆笑を誘った。今日東京ドームで日本ボクシング界の歴史が塗り替わる。運命のゴングは20時24分に予定されている。
(文責・本郷陽一/RONSPO、スポーツタイムズ通信社)