恋愛感情を悪用して複数の男性から総額1億5千万円以上の現金をだまし取ったなどの罪に問われている「頂き女子りりちゃん」こと25歳の女の裁判は、4月22日、懲役9年・罰金800万円の判決が言い渡されました。  判決を前に被告は、拘置所で便箋87枚にわたって書いた手記を東海テレビの記者に託しました。そこには赤裸々な人生が書かれていました。

■87枚の手記から見えた「りりちゃんの人生」

「頂き女子りりちゃん」を名乗り、恋愛感情をもてあそんで、3人の男性からあわせて1億5500万円余りをだまし取った罪などに問われた渡辺真衣被告、25歳。

東海テレビは12回にわたる接見を重ね、判決を前にした「手記」を独占入手しました。その数、実に87枚。

綴られた文章からは被告の心の中や、人生が見えてきました。

■少女時代は家族に「絶望」

 海と緑が美しい、神奈川県平塚市。両親、1歳上の姉とともに過ごした少女時代の出来事は、嫌な記憶として45枚にわたり書かれています。

(手記より) 「家族4人で何処かに出掛けた記憶も、仲良く会話した記憶も、仲良くご飯を食べた記憶も、何もありません」「いつも暗い雰囲気が家の中にまとわりついていると、私は感じていました」

手記に綴られていたのは、家族との「歪な関係」です。父親に対する記述は「暴力」にあふれていました。 (手記より) 「肌にライターの火をつける」「包丁でおどされる」 (手記より父親の発言) 「お前包丁隠しただろ」「今から包丁を買ってきて、お前のことを殺すからな」

(手記より) 「私は本当に殺されちゃう、怖い、誰か助けてと思い、勇気を出して110番を押しました」

しかし、駆け付けた警察官の目には「親子喧嘩」と映ります。 (手記より警察官の発言) 「アイス買ってきて仲直りしようと思ったんだって」 (手記より) 「私の心全部崩れ落ちて、なんにもなくなっちゃった」「この世界に期待するのを辞めた日でもありました」

失望と怯えの日々の中、心のよりどころだったのは母親の存在でした。 (手記より) 「私は、母親のことが好きでした」「唯一心置きなく話せるのが母親だけだったからです」 しかし、アトピーに悩み同級生から心無い言葉を浴びた娘に母親が言い放った一言は、「失望」を「絶望」に変えたといいます。 (手記より同級生の発言) 「あいつのことさわってこいよ」 (手記より) 「自分が、バイ菌のような扱いを受けてると気づいて時間が止まりました」「母にそのことを相談してみました」 それに母親が「気のせいでしょ」と答えたことが「すごくすごくすごく、それが悲しかった」と手記には書かれています。

家族について記した文字は、涙で滲んだような個所がありました。 判決を6日後に控えた4月16日、両親への取材を試みましたが、自宅はインターホンを押しても応答はありませんでした。

母親は裁判での情状証人を断り、法廷にも姿を現していません。

■「存在意義を感じるため」体を売る日々…そしてホストへ

 渡辺被告は今から1カ月前の3月21日、拘置所にいる身でありながら、嬉々として記者に「ホスト愛」を語っていました。

渡辺被告: 「ホストとしゃべっている夢見て、LINEしようと思ったけど、スマホない!」 家族に絶望した彼女が、最初に居場所を求めたのは「ネットの世界」でした。

(手記より) 「会う目的は、みんな当然SEXがしたいからなことも分かっていたし、私にも、自分の取り柄がそれしかないと理解していたから、それで良かった」「イヤがられて、きもちわるがられて、ずっとマイナスな人間だったから、自分とSEXして、相手が喜んでくれることで自分のマイナスを埋められる感じがした。すごくうれしかった。自分が求められていると思えて、とても満たされた」

ネットで出会った年上の男性に体を売り続け、飢えていた『存在意義』を感じる日々。

そして20歳のころ、さらに満たされる場所に出会います。 (手記より) 「最後にきてくれたホストだけは、すごく陽気に『のもー』と話しかけてくれて、話題もたくさんふってくれて、笑わせてくれてすごく楽しいと感じさせてくれた。こんなに楽しい経験、生まれて初めてで幸せだった。生きる意味を見つけられたとすごく気持ちが明るくなり、人生が救われた気がした」

ホストとの出会い。心と体を許し、次第に増えていく支払いは毎日10万円ほどにもなったといいます。 渡辺被告はこのころ、風俗店の勤務で得た収入をほぼ全て、そのホストに捧げていたといいますが、「結果、締め日のナンバー発表の時、No2で、ずっと維持していたNo1から落ちてしまいました。私は期待を裏切ってしまったと泣きました」と綴っています。 金を用意できず「ホストをNo1にできなかった」。「存在意義」を見失っていた時、「頂き女子」誕生の決定的な出来事があったといいます。

■「成功」が生んだ“頂き女子”

(手記より) 「『300万ください』とLINEでお願いしたお客さんの1人から『大丈夫?』と心配をしてくれるLINEが届きました。『少しだけなら助けたい』と言ってきてくれて、口座を聞かれ、いきなり30万くらいを振り込んでくれました」

手あたり次第お願いしていた風俗店の客の1人が、まさかの支援。その額は少なくとも375万円、この「成功体験」から、1つの結論にたどり着きます。

(手記より) 「『借金の支払いできない』とうそをついて、お金のことを心配してくれるように仕向けてしまいました」「私はその頃から、お金はいろんな男性にうそをついて、もらえばいいんだと考えが固まりました」

男性から金をだまし取る「頂き女子」が生まれました。

■「私は狂ってる」詐欺テクニックへの称賛から破滅へ

(手記より) 「私が『おじさんからもらった』とお金の写真を(SNSに)のせると、フォロワーもたくさん増え同時にリプライやDMで『どうやったらそんなにおじさんからお金引けますか?』と」「女の子たちから質問を受けることがすごく嬉しかった」

男性から金をだまし取るテクニックを「マニュアル」にして販売するようになった渡辺被告。 (手記より) 「『良かった』『すごく読みやすかった』って褒めてくれて、私の書いた文章が役に立ったんだと実感できてすっごくすっごくあの日はうれしかった」 マニュアルの売上に、男性からだまし取った金。毎月多い時には400万円をホストに貢ぐようになりますが、この頃の記述は書き殴るような文字で振り返られています。 (手記より) 「お客さんから1000万を出してもらった。それをお願いする時うそをついて丸めこもうとしているような自分が、汚くてキライだった」「女の子にサギをすすめてしまった。被害者もそれにともない増えた」「このおかしさに気付いてやめられてたらよかった。ごめんなさい。私は狂ってる」

2023年8月、愛知県警に逮捕された渡辺被告。

捜査員に対し、「捕まえてくれてありがとう」と告げたといいます。

■今後は「本当の救い」を追求したい…判決は懲役9年罰金800万円

 初公判では、ベトナム国籍の夫がいるという、驚愕の事実が判明しました。 (手記より) 「今も既婚者のままですが、相手の男性(だんな)がどこに住んでいるのか、何をしているのか、連絡先もわかりません」「デリヘルで出会った日本人経営者の男性に『ベトナム人と結婚したら、お金をあげる』と言われて私がOKしたからです」「ホストにお金を使ってあげるためだったら、自分がどうなってもいい。人生も捨てる」 「存在意義」を感じられるなら、人生だって売る。世間の注目を集めた「頂き女子」が寄せた独占手記には、力強い文字で、こう綴られていました。 (手記より) 「『本当の救いって一体何?』と考えるようになりました。私は今、それを追求していきたい。それが分かるようになったら、私と同じ境遇の女の子達に本当の救いを教えてあげられる存在になりたい」「もう誰も傷つけたくない。強く生きれる女性になります」

4月22日、名古屋地裁の大村陽一裁判長は「ホストの売上に貢献するための資金を得たいという動機は身勝手」と述べ、マニュアルの販売については「主体的に同種の犯罪を助長し悪質」と指摘。 しかし「謝罪と賠償の意思を示すなど反省していて、貢いだホストが被害者に1800万円を返還する意向を示している」などの事情を考慮し、懲役9年、罰金800万円の判決を言い渡しました。