産休前にあいさつのため配るクッキー、いわゆる「産休クッキー」が物議を醸している。話題のきっかけは、とある女性のSNS投稿だった。赤ちゃんやお母さんのイラストがあしらわれたクッキーの画像に「職場の人に配るクッキーがかわいい」というコメントを添えたところ、肯定的な反応がある一方、配慮が必要だという声があがったのだ。

【映像】イラストと文言も要因? 「産休クッキー」の実物(複数枚)

 結婚や子育てなど幸せアピールが炎上しやすい時代。過剰に配慮する社会でいいのか、『ABEMA Prime』で考えた。

■「産休クッキー」で現れた心情とは?

 産休クッキーをめぐる反応として、「微笑ましい」「かわいいしもらったらうれしい。ありがたく受け取る」といった肯定的な声がある一方で、「不妊治療中の人や未婚の人もいる。これ渡されたら配慮足りないって思う」「マタニティハイなのか知らんが、仕事に穴開けるのに幸せアピールうざい」といった批判もある。

 コラムニストの河崎環氏は「2児の母として、マタニティハイの存在は理解している」とした上で、「クッキーを配るのはそれはそれでいいし、口頭で言ってくれればいいのにと私は思うかもしれない。そこから『妊娠できない人たちへ配慮を』といった話をしがちな、日本のネットの暗さや陰湿さには辟易する」と語る。

 時事YouTuberのたかまつなな氏は、「批判する人の気持ちも少しわかる」という。「同世代の結婚や妊娠・出産報告に、素直に『おめでとう』と言えない瞬間はある。自分は嫉妬深いんだなと嫌になるが、そこで『なぜ出産報告をするんだ』とは全く思わない。SNSで叩いてしまう人というのは、生活環境に余裕がない、自分に対するSOSなのではないか」との見方を示す。

 ネット掲示板「2ちゃんねる」創設者のひろゆき氏は「同質性を求める日本人」に原因があると指摘する。「大金持ちと結婚した女性がいて、有給休暇でドバイへ新婚旅行すると聞いても、その人はその人で嫉妬する必要はない。子どもも産む人と産まない人がいて、それぞれに『ふーん』ぐらいでいいのに、“生まない側でいてほしい”と同質性を求めるのが良くない」。

■配慮どこまで必要?

 ひろゆき氏は「配慮が必要かどうか、という考え方が間違っている」との持論だ。「忙しい時期に有休でハワイ旅行する人がいて、“自分も休み取るかもしれない”と受け入れつつもモヤモヤして、ネットで『ムカつく』と書くのはいい。『不満を感じる人はネットをはけ口にして。以上』で終わりだ。そこに有休取得はダメだとか、お土産はいらない、といった配慮は必要ない」。

 17年の専業主婦を経て、外資系企業で働く薄井シンシア氏は投稿する側の心構えについて、「自分が幸せだとSNSに投稿してもいい。ただ、誰かに何か言われる覚悟は必要。アメリカのある有名人がXを最近やらなくなったが、『グッドモーニング』と投稿したら、『グッドなのは、あなたが白人男性だから』などと言ってくる人が絶対いるからだ」と指摘する。

 一方、河崎氏は「誰かを叩いたり、炎上に加担したりする人たちにとって、ネット上で自分の意見や怒りをぶつけることは一種のセラピーだ」との見方を示す。「幸せ表現にその場では『良かったね』と返して、モヤモヤするものがあればSNSで毒を吐いてもいい。しかし、他の人たちが一生懸命“そうだよね”“そうじゃないよね”と加わり、いらぬ戦いをネット上で重ねていく」。

■「子育ては楽しい」はもはや禁句に?

 テレビ朝日の平石直之アナウンサーは、「ここ数年で劇的に世の中が変わってきている」と語る。「結婚や出産を経験しない人が増えてきた。選択した人もいれば、諦めた人もいるかもしれないことを考えた時に、“幸せ自慢”が通用しなくなっているのではないか。『子育てには楽しいこともある』と言いづらくなり、『大変で大変で…』と言い続けないといけない世の中は良くないと思う」。

 薄井氏は地域性もあるとし、アメリカでは「産休を取る本人ではなく、周囲がベビーシャワーをやる」と説明する。「『みんなに迷惑をかけるから』とクッキーを配ることに違和感がある。産休に入るのが悪いことだという風潮は納得いかない」。

 河崎氏は「ネットでは、自分が弱者や犠牲者になって傷ついたと表現すると、そちらに賛同が集まるから気持ちが悪い」と苦言を呈した上で、「出生率が下がり、未婚率が上がった時代の“新しいマナー”なのだろう。相談されたら『子育ては楽しい』と返す程度で、自分からは積極的に言えなくなっている」と語る。

 たかまつ氏は「Xの雰囲気がだいぶ変わってきた」との見方を示した。「高校時代は応援してくれる居心地のいい場所だったが、炎上しやすい場所に変わってきた。ある人に『2ちゃんねるだと思えばいい』と言われ、たしかに2ちゃんねるの悪口はあまり落ち込まないなと納得がいった。Xで炎上すると、まるで自分が本当に悪いことをしたかのような錯覚に陥るのは問題だ」。(『ABEMA Prime』より)