お弁当が並ぶ写真とともに、「産後里帰りのために夫のお夕飯弁当第1弾作りました。夫よ、1カ月はこれで我慢してくれ」と添えられたコメント。今、この投稿が炎上し、議論になっている。「旦那さんがうらやましい」という声の一方、「身重な妻に1カ月分の食事作らせる夫は何様?」「夫は何もしないの?甘やかせすぎ」など非難が殺到したのだ。さらに、「パートナーがいない人が嫉妬しているだけ」といった批判に対する批判も。

【映像】身重な妻が“夫のために作った”実際の弁当

 直近でも「子持ち様」「産休クッキー」などのワードとともに結婚生活や子育て、家事分担に関する発信が炎上しがちになっているが、その背景にはどのような構造や事情があるのか。『ABEMA Prime』で議論した。

■本人よくてもなぜ批判? 覚悟して投稿すべき?

 「作り置き」投稿について、ジェンダー論・労働政策が専門の奥田祥子・近畿大学教授は「夫婦が合意してハッピーであれば、他人がとやかく批判すべきではない」とした上で、「社会が夫婦に求める新しい姿よりも、振り子が逆にいっていたのだと思う。さらに女性の複雑な生き方が、SNSという土俵の上で爆発してしまったのではないか」と述べる。

 批判に対し投稿者は「夫は仕事柄、深夜帰りだから私が勝手に心配で作っただけ」「夫は(妊婦への)理解やサポートが素晴らしいので、元気な日くらい何かしてあげたいと思っただけ」「自分のことは自分できる大人の男だし、すごーく最高な夫なんです」と説明している。その上で、「世の男性は産後のご飯の面倒まで見てくれるのが普通と思わないで!」との投稿もしている。

 「NO YOUTH NO JAPAN」代表理事の能條桃子氏は「Xではなく、Instagramだったらこんなことにはなっていなかったのでは。“自分が夫のために頑張った”“私の記憶・メモリーのためのもの”としてあげ、周りがいいねをする。それで完結すれば何の問題もない話だ。今回の炎上は、本人、批判する人、その批判を批判する人たちという三重の構造で盛り上がっているように見える」との見方を示す。

 批判の中には、「投稿したら誰に見られるかわからんのだから、もう少し考えてから発信しろ」「自分が逆の立場だったらどうするか、考えてつぶやかないと炎上は必至」といった声もある。

 これにライター・編集者・ラジオ司会者の速水健朗氏は「Xで発言する上で覚悟が必要だとは思わない。表現の自由を実現するのは“みんな覚悟を持て”ではなく、“みんなで努力して発言できる社会をつくろう”というもの。パブリックの論理で被せるより、よかれと思って弁当をあげている人を叩かないほうが良い社会のはずだ。今は覚悟がある強い人たちしか戦えない舞台で、社会を地獄にする批判しか起こっていない」と反論した。

■男女平等の議論めぐる“正解”は

 奥田氏は炎上の背景として、「少子化対策が叫ばれる中で『子どもを産む人』に向けた政策も多く、子を持たない人との間に摩擦も」「単身世帯のセーフティネットを生み出す実効性のある政策が必要」との見方を示している。

「国が『異次元』とまで銘打った少子化対策に対して、“なぜそんなに優遇するんだ”という思い込み・偏見があるのではないかとみている。一方で、単身世帯に対するセーフティネットがまだ不十分。そのあたりの乖離が、SNS上の議論とは別のところである。以前、“保育園落ちた日本死ね”があったが、あれが保育政策に影響を与えたように、今後の動きは冷静に見ていかないといけない」

 今回出ている声は、“夫の料理は妻が作る”という男女の「役割」の固定化や放置すればモラハラ夫を誘発するということへの問題提起なのか、専業主婦や子持ち様への批判なのか。

「SNS上の問題と、ジェンダーや多様性の話は分けて考えたほうがいいと思っている。私はケアの男性学ということで調査研究しているが、前者については、ネット上でもやはり思いやりを持つということだ。後者は、伝統的な男女観も含めて受け入れることが多様性受容だと思う。伝統が新しいものに100%、しかも1つの固定的な方向に変わってしまうのは行き過ぎだ」

 一方、パックンは「“女性が口出すな”といったようなことは、伝統があるからといって守らなければいけないものではない。選択肢をすべて残す必要はなく、ダイバーシティの中でも淘汰すべきものはある」と投げかける。これに奥田氏は「批判をしていいし、受容してもいい。理想論かもしれないが、相手をケアし合いながらの対話をすべきだ」と訴えた。(『ABEMA Prime』より)