日本が世界に誇るコンテンツ「アニメ」。今年のアカデミー賞では宮崎駿監督の『君たちはどう生きるか』が長編アニメ映画賞を受賞。さらに毎週さまざまなアニメが放送され、Netflixなど動画配信会社もオリジナルアニメを制作するなど、その本数も増えている。

【映像】低賃金&長時間労働は「異常」 アニメ関係の仕事の“月給”分布グラフ

 そんな中、改善が急がれているのが、アニメーターなどスタッフの労働環境だ。日本アニメフィルム文化連盟(NAFCA)の「アニメ業界の働き方に関するアンケート結果」によると、声優を除くと約半数が月225時間以上の長時間労働をしていることがわかった。中には月330時間を超える人も。収入面を見ると、ひと月の手取りは37%あまりが20万円未満で、60%以上が30万円未満となっている。

 アニメ業界の労働環境が長時間×低賃金とされる背景には何があるのか。改善には何が必要か。『ABEMA Prime』で考えた。

■労働環境に問題も必要な修行期間…「大きな格差がある」

 NAFCAの調査では、現在の仕事を継続している理由の1位は「楽しいから」(73.1%)で、「お金を得るため」(69.4%)、「才能や能力を発揮する」(46.7%)、「人に感動を与えられる」(42.1%)と続く。

 アニメのプロデュースや原作などを手掛けるやまけん氏は「やりがい搾取という話はそのとおり。とはいえ、描き始めたばかりの人は上手に描けないし、時間もかかってしまうので、給料を上げられないのは当たり前のことだ。そこだけ解決すればいい話ではない」と指摘。

 制作現場の構図として、例えば1秒間24コマで構成されている作品では、起点となる数枚を経験のある人が描き、間を埋めるイラストは若手が担当するような振り分けになっているという。「動画を描く人と原画を描く人で給与形態が違う。前者は1枚単位でもらっていたり、月給だったりする方が多い。一方、後者で上手いと言われる方は、シーン1カット単位で描いたりするし、フリーの方も多いので、給料が高かったりする。ここは大きな差があり、ボトムから上げるのは難しい」と語る。

 実働時間に関わらず、みなし時間を定める特定20業務にアニメ業界も含まれ(専門業務型裁量労働制)、過剰な残業でも正当な見返りがない実態がある。また、フリーランスは業務に対して報酬をもらうかたちで労働時間に制限がなく、正社員同様の働きでも労基対策になってしまう。

 弁護士、日本アニメーター・演出協会監事、「MANGA議連」アドバイザーも務める桶田大介氏は「過半数がフリーランスなのは間違いないだろうが、いわゆる偽装請負かというとそうではない。拘束時間や報酬が決まっている中で、技能が乏しいと時間がかかる部分も仕方ない。ただ、現状の問題は改善されるべきだし、動いている会社やスタジオも増えている」との見方を示す。

 日本アニメーター・演出協会(JAniCA)の「アニメーション制作者実態調査2023」によると、平均年齢と年収は上昇している。桶田氏は「年収の中央値は約420万円で、全業種と比較すると並みのところまではきている。ただ、入口の給料が低く、修行期間が長い。また、社員は1枚換算2000円とかで描くところ、フリーランスは200円で描いていたりする」とその差を指摘した。

■アニメメーカーが制作スタジオを買収するなどの“集約化”も必要?

 株式会社KADOKAWAや株式会社ドワンゴの社長を務める夏野剛氏は「東映アニメーションや東宝、KADOKAWAなどのいわゆるアニメメーカーは制作スタジオに対して、売れた・売れないに関わらずお金を払っている。1話あたりの制作費はこの3年で1.5倍になるなど、業界全体で上がっている」と説明した上で、「アンケートに答えているのは制作スタジオに所属している社員の方、あるいはフリーで所属している方で、実際に働いている人たちまで届いていないかもしれない」と話す。

 桶田氏は、映画やテレビの人気で利益が増減した従来の仕組みから、現在は配信サービス契約数が利益になることで、流行に関係なく収益が安定、放映権料が増加し、スタッフの賃金アップにつながっているとみている。「配信が出てきたことによってプリセール、つまり“この作品だったらこのくらいで買いましょう”が先にできるようになった。以前のように0-100の勝負ではなく、5、6割ぐらいのベースラインがもらえるようになったわけだ。上の集団は制作予算が増え、高給で人を集めて強くなっていくが、中堅以下はそんなについていけない。しかし人件費は上に引きずられていく。ここ3〜5年で制作会社が、テレビ局やそれこそKADOKAWAなどにも買収されている」。

 これに夏野氏は「テレビ局や我々がスタジオに資本出資することで、労働条件は大企業として扱うので劇的に改善される。日本は労基署も含めて大企業にはものすごく厳しいが、中小企業や中小スタジオにはあまり介入しない。そういう構造があるので、集約化は1つの道だと思う」との考えを示した。

 桶田氏によると、アニメ業界は人材の流動性が高く、それ自体は前向きに捉えているものの、「ある会社が育成しようと、10人のうち8人育ってよかったと思っていたら、1年後に1人しか残ってないという状況が普通に起こる」という。「2000年代後半に一度、日本のアニメ界が落ちこんだ頃は、東映アニメーションですら敵に塩を送るだけだと育成をやめた。ただ、この3〜5年でだいぶ状況が変わってきている。お金を出してでも“うちで学んでください”という制度を始めたり、抜ける以上にかき集めようとしている」とした。

■世界に届くコンテンツを作るには“ボトムアップ”が欠かせない?

 日本動画協会「アニメ産業レポート2023」によれば、2022年の国内外の日本アニメ関連市場は2兆9277億円と過去最高を更新した。コンテンツを生み出す土壌についてやまけん氏は「アニメやゲームの世界は、実はボトムがけっこう大事。エロかったりグロかったりするものがあって当たり前で、そうしたぐちゃぐちゃしたところからとんでもなく面白いものが生まれてくる。だからこそ世界的に売れると思っている」との見方を示す一方、「大手になって“コンプラが〜”、国が支えて“世界に売っていきましょう〜”となると、見せたくない下のドロドロした部分が可視化されるのが難しいところだ」と懸念を示す。

 これに夏野氏は「アニメはほとんどの場合で漫画の原作がある。人によっては過激に感じる表現もある中から、ものすごいヒット作が生まれる。『進撃の巨人』なんかは暴力だらけだとなるわけだけど、世界で大ヒットした。そういうギリギリの部分があるのは事実だ」と指摘。

 桶田氏は「我々が見るのはすべて動画の線であって、原画ではない。最終成果物のクオリティという意味でそれはものすごく重要で、今は中韓やベトナム、フィリピンなどに頼っている。これを日本に取り戻すことで、育ってくる層も増えるだろう。育成時にはそこをある程度まとまってやるという取り組みを大きいところが連合してやらないと、本質的には問題が解決しないと思う」とした。(『ABEMA Prime』より)