ロケット・モルゲージ・クラシックは、初日から首位を走り続けていた22歳の米国人選手、アクシャイ・バティアの完全優勝が期待されていた。


だが、蓋を開けてみれば、最終日は5〜6名が僅差で競い合う大接戦になった。そして大詰めは、キャメロン・デービスが通算18アンダーの首位タイで先にホールアウトし、デービスと並んでいたバティアが72ホール目でバーディーを奪えば優勝、パーならプレーオフという状況になった。

大観衆が固唾を飲んで見つめる中、バティアはピン奥10メートルからのバーディパットを1.5メートルもショートさせると、パーパットも外し、まさかの3パットでボギー・フィニッシュ。最後の最後に喫した3パットは、バティアにとっては今週4日間で初めての痛恨の3パットだった。

プレーオフに備えて練習場でウォーミングアップしていたデービスは、バティアがボギーを叩き、自身の優勝が決まったことを悟った途端、笑顔を輝かせながらキャディと抱き合って喜びを噛み締めた。

「信じられない。きょうは僕の日ではないと思いながらプレーしていたのに…。こんなこともあるんだね。言葉にならない」

驚きと喜び、うれし涙が一気に込み上げていたデービスは、目を真っ赤にしながら、言葉も途切れ途切れに、なんとかそう答えた。

オーストラリア出身の29歳。2009年のオーストラリアン・マスターズに出場したタイガー・ウッズを眺めたことが「人生で最高の思い出だ」というデービスは、2016年にプロ転向し、2019年からPGAツアーに参戦開始。そして2021年のロケット・モルゲージ・クラシックで初優勝を挙げ、今回は大会史上初となる大会2勝目を達成した。PGAツアーにおけるオーストラリア出身選手の優勝は今季初となった。

デービスは最終日を首位に1打差の3位タイからスタート。いきなりボギーを喫したものの、3バーディを奪い返して後半へ。2オンを狙った14番では池に転がり込んでボギーとなったが、次なるパー5の17番で見事なバーディを披露。攻守をうまく使い分け、この日、スコアを2つ伸ばした戦いぶりは、誰よりも勝利に値する内容だったと言っていい。

一方、最後の最後に痛恨の3パットを喫して惜敗したバティアは、4日間、勝利に最もにじり寄りながら戦っていた。22歳の若さながら、2023年バラクーダ選手権と今年のバレロ・テキサス・オープンを制し、通算2勝を誇るバティアは、世界ランキング29位、フェデックスカップランキング15位で臨んだ今大会では、フィールド内で「最高ランクの選手」として注目を集めていた。そんな期待に応えるかのように好発進し、好プレーを続けていたのだが、72ホール目の幕切れは、なんとも酷な終わり方だった。

とはいえ、17番でもバーディチャンスを逃し、18番では3パットのボギーという流れは、終盤でバティアのゴルフが揺らいでいた証だった。そして、最終日のバティアがスコアを伸ばせず、イーブンパーで終わったのに対し、デービスは2つ伸ばして逆転勝利。バティアの3パットが勝敗を分けたことに違いはないが、最終日のゴルフ内容は、明らかにデービスがバティアを上回っていた。

いずれにしても、敗北したバティアは悔しさで胸が潰れそうだったに違いないのだが、それでも、すぐさま敗北会見に臨んだ姿勢は潔かった。全米オープンでは16位タイ、トラベラーズ選手権では5位タイ、今週は2位タイ。「調子が上向いているのでは?」と問われると、彼はきっぱり、こう答えた。

「それは全然気に留めていない。僕は勝つことだけに集中している」

まだ22歳。若い力は、打ちのめされても再び立ち上がることができる強靭さに溢れている。この敗北を糧に、バティアは一層、強くなるはずである。

文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)


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