パスタ、ピッツァ、生ハム、カルパッチョ、ミネストローネ、ティラミス、ジェラートなど、種類豊富なイタリア料理。中でも「カプレーゼ」はとてもシンプルなのにおいしく、日本でもなじみのある一皿だと思います。

正式な名称は「インサラータ・ディ・カプレーゼ」と言い、「カプリ島のサラダ」を意味するイタリア南部のカプリ島発祥の郷土料理です。

「カプレーゼ」の作り方は、実にシンプル。モッツァレラチーズとスライスしたトマトを交互に挟んで並べ、その上にバジルを乗せて、オリーブオイルと塩コショウで味付けするだけで、誰でも簡単に作ることができます。シンプルですが、味と香り、食感が絶妙に調和していて、お酒を飲む時のおつまみとしても最高です。

実は、この「カプレーゼ」には、科学的にも説明できる「トマト」と「チーズ」の相性のよさが詰まっています。イタリア料理では非常に多種類のチーズが使われますが、カプレーゼに最適なのは、やはりモッツァレラチーズでしょう。そのおいしさの理由をご紹介します。

■モッツァレラチーズとトマトはなぜ合うのか? 「うま味」の秘密
チーズの原料は、ご存じの通り、ウシやヤギなど家畜の乳です。乳は、乳タンパク質の「カゼイン」が水の中に均一に分散しているので白く見えますが、乳酸菌を加えて発酵させて酸性に傾け、さらにタンパク質分解酵素を使って処理すると、「カゼイン」が固まりになって沈殿していきます。

すると、「ホエイ(乳清)」と呼ばれる液体分と、「カード」という沈殿分に分かれます。この「カード」を取り出したものが、チーズの原形の「フレッシュチーズ」です。

その後は「カード」だけを型などに入れて固め、加塩したり、冷暗所で熟成させたり、様々な工夫が施されることで、種類豊富なチーズができあがります。

チーズは、長く熟成させるほど、味が濃くなります。乳タンパク質のカゼインにはほとんど味がありませんが、時間が経つと徐々に分解されて、「うま味」の元となるアミノ酸のグルタミン酸が遊離されていくからです。また、水分が減っていくため、そうしたうま味成分や塩分の濃度も高くなっていきます。

パルミジャーノ・レッジャーノ(パルメザンチーズ)は2年以上熟成させて作られます。表面に白い結晶がでていることがありますが、これはタンパク質が分解されて生じたアミノ酸のうち、水に溶けにくいものが析出したためです。

うま味と塩味が凝縮された硬いチーズなので、そのまま食べるより、粉状に削り、調味料として使うのに適しています。

一方、イタリア南西部のカンパニア州が発祥のモッツァレラチーズは、フレッシュチーズの一種です。イタリア語で「引きちぎる」を意味する「モッツァーレ」が語源となっているように、フレッシュチーズを手で引きちぎって成形します。

乳本来の甘味と酸味が残っていながらも、クセがなく、弾力のある食感を楽しめるのが魅力ですが、熟成されたチーズのような「うま味」はありません。まだ、タンパク質が十分に分解されておらず、グルタミン酸をはじめとするアミノ酸が遊離されていないからです。

そしてこの、食感はいいのに「うま味」を持たないモッツァレラチーズに、抜群に相性がいいのが「トマト」です。トマトは、赤く熟せば熟すほど、うま味成分である「グルタミン酸」が増える食材です。

モッツァレラチーズにトマトを添えることで、熟成したチーズが持つはずの「うま味」を補完することができ、シンプルなのに間違いなくおいしい一皿ができるというわけです。

なお、モッツァレラチーズ自体も、自宅で簡単に作ることができます。鍋に入れた牛乳を65度くらいまで温めてから火を止め、少しのお酢を加えてかき混ぜていくと、1〜2分で「ホエイ」と「カード」に分離します。濾してカードだけを取り出し、再びお湯の中で折りたたむように成形すれば完成です。

赤く熟したトマトと合わせれば、おいしいお酒のつまみになること間違いなしですね。今夜あたり、さっそくチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

▼阿部 和穂プロフィール薬学博士・大学薬学部教授。東京大学薬学部卒業後、同大学院薬学系研究科修士課程修了。東京大学薬学部助手、米国ソーク研究所博士研究員等を経て、現在は武蔵野大学薬学部教授として教鞭をとる。専門である脳科学・医薬分野に関し、新聞・雑誌への寄稿、生涯学習講座や市民大学での講演などを通じ、幅広く情報発信を行っている。

阿部 和穂(脳科学者・医薬研究者)