セックスレスの原因は、「女性は男性に比べ、性欲が少ない」からなのだろうか。アラサー女性へのインタビューからレス増加の理由をひも解いていく。

■セックスレス“過去最多”を記録
3月15日に日本家族計画協会は、セックスレス(1カ月間性交渉がない状態)の既婚男女の割合が48.3%で、過去最高となったことを発表した。2004年の同調査から16.4%も増加していたのである。

夫婦間でセックスに積極的になれない理由は、男性で「相手が応じてくれない」(24%)、女性で「面倒くさい」(22.6%)が最も多かった。女性で2番目に多かった理由は「仕事で疲れている」(20.8%)となっている。

この結果について、SNS上では「男性のほうが女性より性欲が強い」といった声が多く上がり、男女の性欲の差についての議論が見られた。

しかし筆者は、レスが増加した背景には、男性同様、女性も性を楽しめるようになってきた側面が影響しているのではないかと考える。これまでたくさんのアラサー女性に対して恋愛や性についてのインタビューを実施してきた経験から、セックスレスの理由を探っていく。

■ここ数年で急増した女性向けの性サービス
セックスは本来、恋愛や結婚同様相手がいないと成り立たないものであった。しかし近年、セックスを“代用”できるサービスや商品が続々と登場している。特にここ数年、女性向けの性サービスが急増。その代表的なものを紹介する。

◆2009年、『an・an』のセックス特集で女性向けアダルトビデオが定着
従来、アダルトビデオは「生々しい」「男性視点である」と、女性から受け入れられにくいものであった。しかし2009年、女性向けメーカー「SILK LABO」が発足。女性が好むロマンチックなシチュエーションや甘いルックスの男優が登場し、話題となった。

さらに同年、ファッション雑誌『an・an』(マガジンハウス)で、セックス特集号が組まれ、付録DVDにイケメン男優の鈴木一徹さんが出演。一気に女性向けアダルトビデオが浸透するきっかけとなった。これにより、今まで男性のものであったアダルトビデオを、女性がより身近なものとして楽しめるようになる。

◆セルフプレジャーグッズの登場
女性向けビデオ同様、セルフプレジャーグッズも「男性だけ楽しむもの」から、「男女ともに楽しむもの」に変革した。2019年頃から“フェムテック”という言葉が広がり、女性向けのセルフプレジャーグッズをはじめとした商品やサービスが年々増加。女性向けセルフプレジャーグッズが大手百貨店に出店するなど広がりを見せ、気軽に手に取れるようになった。

◆女性向け風俗の登場
さらにここ数年で、女性向け風俗店も登場した。

夫とのセックスレスに悩み、女性向け風俗店を実際に利用しているヨウコさん(仮名/32歳)によると、「男性とのスキンシップは、女性が男性の欲求に合わせて我慢してしまうことも多い。そのせいで今までセックスを楽しめなかったけど、女性向け風俗はお金を払えば、健全にセクシャルなサービスを受けたい需要にダイレクトに応えてくれる」と語る。このようにセックスを“外注する”サービスも年々増加している。

◆オープンリレーションシップといった新しいパートナーシップ
夫婦の形にとらわれない、新たなパートナーシップの概念も近年登場。

夫とのセックスレスに悩み、「セックスレスが改善しないのなら離婚しかない」と夫に切り出すも、拒否されたというマチさん(仮名/29歳)は、オープンリレーションシップ(既婚・交際中であっても、互いに合意の上でほかの人とも肉体関係を結ぶこと)を夫と同意の上、結んでいるという。

彼女には、夫とは別に肉体関係だけのパートナーがいる。現在も夫とは別居中だが、夫婦関係は以前より良くなったそうだ。

◆コロナ禍でVRを利用した“接触のない”性サービスも登場
さらにコロナ禍で、接触をしないバーチャルセックスも登場している。

バーチャルセックスとは、スマートフォンやパソコンを介したVR空間上で行う疑似セックスのことで、物理的な接触はないものの、VRゴーグルを介してリアルタイムで会話をし、スマートフォンと連動したバイブレータなどのセルフプレジャーグッズを使うことで現実のセックスに近い快感を得ることができるという。

実際にバーチャルセックスを楽しんでいるというミサキさん(仮名/年齢非公開)は「現実のセックスは、男性のタイミングで求められることが多く、しぶしぶ応じることもあった。でも、VR空間にログイン=セックスに同意、という環境があれば自分のしたいときに、理想の自分の姿でのセックスが実現できる」と語る。

■セックスレスの背景に、性サービスの充実
前述した女性用風俗を利用しているヨウコさんは「ちょっと前まで女性がセックスレスに悩んでも、性欲を解消することができなかった。でも、今はできる時代になった」と語る。

アダルトビデオや、セルフプレジャーグッズ、風俗店まで、男性向けの接客・性的サービスは今までもたくさんあったが、女性向けとして浸透したのは、ここ数年のことである。

残念ながらレス解消の特効薬はない。女性が夫婦間でのセックスを「面倒くさい」と思う背景には、気軽に性欲を解放できるサービスが充実したことも少なからず影響しているといえそうだ。これは一見、レスを加速させるように思えるが、見方を変えれば「女性にも性欲はある=面倒くさいと思う前に、早く向き合うことで、レスを予防できる」とも考えられる。

パートナーに拒否されたとき「相手に性欲がない」と諦めるのではなく、互いが求めているものを探りながら、コミュニケーションをとることがレス解決の糸口となりそうだ。

この記事の筆者:毒島 サチコ プロフィール
ライター・インタビュアー。緻密な当事者インタビューや体験談、その背景にひそむ社会問題などを切り口に、複数のWebメディアやファッション誌でコラム、リポート、インタビュー、エッセイ記事などを担当。