福島県相双地区の国指定重要無形民俗文化財「相馬野馬追(のまおい)」が、猛暑を避けてこれまでより2カ月早く、25日から開かれる。祭りを盛り上げる「相馬流れ山踊り」が14年ぶりに双葉町で披露されるほか、若手が伝統行事を受け継ぐ動きもみられる。

 大熊町の義務教育学校「学び舎(や) ゆめの森」に18日、双葉、大熊両町の約60人が集まり、26日に南相馬市である「本祭り」で披露する相馬流れ山踊りの合同練習に臨んだ。

 旧相馬中村藩の5郷で構成される相馬野馬追。本祭りの踊り手は5郷の持ち回りで、今年は両町の「標葉郷(しねはごう)」が担当する。踊りの振り付けができて100年になる。

 さらに今年は、祭りに参加した双葉町の騎馬武者が14年ぶりに町内を凱旋(がいせん)することになった。町に騎馬武者が戻ると踊りで迎える習わしだが、震災を機に途絶えていた。双葉町流れ山踊り保存会会長の今泉千鶴子さん(68)は4月の1回目の合同練習でそのことを知ると、「みんなで踊ろう」と呼びかけた。本祭り後の26日夕、JR双葉駅前で騎馬武者の到着を待って踊りを披露する。

 町の一部は一昨年の8月30日に避難指示が解除されたが、約30人いる保存会の会員は全員が町外で暮らす。避難先で練習は続けてきた。

 26日は山梨県からかけつける会員も。今泉さんは「多くの町民が町外にいて、後継者を育てるのが大変。久しぶりに町民が集まる場で披露して、伝統行事への関心を持ってほしい」と期待する。

     ◇

 開催日の変更に伴い、今回は3日目の27日が平日になる。南相馬市のほとんどの学校は通常通り授業を行うが、地元の小高小学校と小高中学校は「伝統行事を見て欲しい」と休校にする。

 小高中からは、27日に相馬小高神社で披露される踊りに2年生2人が参加する。小高中では1年生で踊りを習い、秋の文化祭で披露している。

 井島彩絵さん(13)は「踊りを広めたい」と参加を決めた。当日は、陣笠に陣羽織を着て扇子を持つ。「神社で踊るのは初めてなので、どんな感じになるか楽しみ」

 地元で花の出荷の仕事に携わる井島梓さん(23)も初めて参加する。小高中に続き、相馬農業高校時代も文化祭や運動会で踊ってきた。

 小高地区は東京電力福島第一原発事故による避難指示が2016年7月まで続いた。震災前に1万2千人だった人口は現在、3800人。梓さんは「伝統文化を残していきたい。踊りを見てもらい、仲間を増やしたい」。

 地元の民謡愛好会に所属する渡部英夫さん(77)は、本祭りやJR双葉駅前、小高神社で歌う。太い声で、高音のパートも歌いあげる。

 「節回しが難しい。若い踊り手が増えたのはうれしいが、歌い手の後継者が見つからないのが一番の悩み」と話す。(大久保泰)