【石川】元日の地震前の能登半島を記録に残そうと、システムエンジニアで絵画修復士でもある新潟市の男性ら国内外のボランティア2千人あまりが、建物の形や細かい道路をデジタル地図に落とし込んだ。「あの日」の前の能登を後世に残す試みだ。復興が進む様子も節目ごとに記録し、立ち直っていく能登を見守りたいという。

 使われているのは、インターネットで誰でも編集ができるデジタル地図「オープンストリートマップ」(https://www.openstreetmap.org/#map=2/-1.4/7.7)。2004年にイギリスで始まったものだ。衛星写真などから作られた簡易的な地図に、たとえば消火栓や避難所の位置などを落とし込み、使いやすいものに変えていける。無料で閲覧や印刷が可能なことから、海外では「国境なき医師団」なども活用しているという。

 この地図上で、地震前の能登半島の「再現」に中心となって取り組んだのが、ベンチャー企業「dott」(東京都)の最高技術責任者(CTO)、清水俊之介さん(40)らだ。普段は人工知能(AI)を使った教材などを開発している。地震直後にこの地図で能登地方を見ると、ほとんど書き込みがなく「白地図」に近かったという。

 清水さんらは国土地理院のデータや航空写真をもとに奥能登地域をはじめ12市町を対象に作業に着手。約20万棟の建物の位置や住宅地の区割り、170キロほどに及ぶ細かい道路などを地図に落とし込んでいった。2月に完成させて保存され、誰でも閲覧したり、編集したりすることができる。

 清水さんは新潟県柏崎市出身。イタリアで絵画修復士の資格を取得したが、留学中の07年、中越沖地震で実家が全壊した。帰国後、都内の美術専門学校講師として働いていた11年、東日本大震災が発生。「今度は恩返しをする番だ」と考えて宮城県石巻市などにボランティアとして赴き、避難所の資材を管理するアプリなどを作った。

 被災地でのボランティア活動で知り合った浅井渉さん(38)と16年に「dott」を設立し、オープンデータを活用して生活を便利にする取り組みにこだわってきた。

 清水さんは被災地の地図について「元々はどんな状態だったのかを記録として残すことで、どう立ち直っていくかも見えてくる」と話す。その意義は、劣化を防いで今の姿を残すことで、歴史の生き証人でもある美術品を100年先、200年先に伝えるというヨーロッパでの美術品の修復の理念に通じるものだという。

 清水さんは「被災地を実際に訪れ、被災地が立ち直る様子を仲間とともに見守っていきたい」と話している。(安田琢典)