ダム湖の水位変化で見え隠れするため、「幻の橋」と呼ばれる北海道上士幌町の観光名所・旧国鉄士幌線「タウシュベツ川橋梁(きょうりょう)」で、中央部の壁の一部が比較的大規模に崩落しているのが6月30日までに見つかった。

 かろうじて11連のアーチはつながっているが、中央部の一つのアーチ部分が薄いコンクリートが残るだけに。同橋梁は、近年、急速に劣化が進んでおり、地元の関係者は「いよいよ、崩落のXデーが近いと感じる」と話している。

 ガイドツアーを実施している同町のNPO法人「ひがし大雪自然ガイドセンター」によると、6月29日午前、町内の宿泊施設関係者が、壁の崩落に気づいた。30日に同センターが確認したところ、橋の南から6番目の橋脚上部の湖面側の壁がV字状に大きく崩れていた。同センターの28日夕方のツアーの際には、崩落はしていなかったが、すきまから小石がポロポロ落ちる様子を目撃していたという。

 同橋梁は、2003年の十勝沖地震の影響で中央付近の側壁が崩落して以来、17年2カ所、20年2カ所、21年1カ所、昨年4月には3カ所と、壁の崩落が続いていた。しかし、地震被害以外は、いずれも、雪解けの4月に発生していた。

 ガイドセンター代表の河田充さん(64)は「今冬は橋が完全水没せず、春も壁の崩落が無かったため、少し安心していた。季節に関係なく6月に崩落したのがショック。つながった橋の姿は長くないと感じる」と話した。

 同橋梁は発電用ダムのために作られた糠平湖の湖面の水位が高くなる秋にかけて湖に水没し、水位が減る冬に氷結した湖面上に姿を見せるサイクルを繰り返している。

 同橋梁を2005年から撮影し続けている十勝在住の写真家・岩崎量示さん(45)も、30日朝、壁の崩落箇所を確認。「ここ数年で急速に劣化が進み、直線だった橋上部もでこぼこになってしまった。よく持ちこたえていると思ったが、いよいよ、いつどこが崩れてもおかしくないことを再認識した。朽ちていく姿を引き続き静かに見守っていきたい」と話した。

 同橋梁へ続く林道は、入り口にゲートがあり、一般の人の通行は制限されている。林道は、熊の目撃も相次いでいるため、徒歩や自転車での通行は危険が伴う。橋の見学は対岸の展望台からか、地元ガイドツアーなどに参加するのが一般的だ。(中沢滋人)