滋賀県長浜市は6月28日、市曳山(ひきやま)博物館で保管する仏壇(個人所有)を市指定文化財に指定した。仏壇内の墨書から江戸時代前期の1680(延宝8)年の制作とわかった。市によると、制作年が判明している一般家庭用の箱形の「在家仏壇」としては国内最古級という。

 仏壇は木造、漆塗りで、高さ192センチ、幅162・2センチ、奥行き99センチ。三間造りで、屋根は長浜曳山祭の曳山と同様の千鳥破風。欄間や柱間には牡丹(ぼたん)や蓮華(れんげ)の彫刻が、着色や金ぱくなどのない自然のままの素木(しらき)造りで施されている。

 文化財指定に向けた解体作業で、屋根の裏板から「延宝八年 大工 藤岡甚兵衛 藤原重光作之」と書かれた墨書が見つかった。藤岡家は江戸時代、長浜において寺社建築で活躍した宮大工。三間造りで大型の仏壇は「長浜仏壇」と呼ばれ、ユネスコ(国連教育科学文化機関)無形文化遺産に登録された長浜曳山祭の曳山を制作した藤岡家が創始者と見られていたが、裏付ける形となった。仏壇は曳山博物館で無料で見学できる。(平岡和幸)

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 仏壇史を研究している水野耕嗣・国立岐阜高専名誉教授(近世日本建築史)の話 仏壇は古代から寺院に存在したが、一般庶民が自宅で使う箱形の「在家仏壇」が全国的に普及するのは、江戸時代初期にキリスト教が禁止され、檀家(だんか)制度が打ち出されて以降。これまでは元禄(1688〜1704年)以降に作られた在家仏壇しか確認されていなかった。(今回指定された長浜仏壇は)制作年が判明した在家仏壇として現存最古とみられる。墨書には制作年や作者の居住地、氏名が書かれ、建造物の創建年月などを大工が記す棟札と同じ方法だ。木彫以外の装飾が全くなく、まだ仏壇業が成立していない時期に宮大工が1人で先駆的に作り上げたのではないか。在家仏壇の初期的様相をよく残しており、成立過程を知る上で貴重な文化財と言える。