兵庫県朝来市で、南アフリカ出身の双子の兄弟が市の地域おこし協力隊員になり、それぞれサイクリングショップとゲストハウスを運営している。コロナ禍があけて訪日外国人客(インバウンド)が増え、利用者の多くが外国人。2人を支援する地元の人たちは、「地域の活性化に貢献してくれている」と目を見張る。

 この兄弟は、兄のケビン・ネルさん(31)と弟のレハン・ネルさん(31)。南ア最大の都市ヨハネスブルク近郊の町で育った。両親に連れられて日本を旅行したこともあった。

 ヨハネスブルク大では共にデザイン工学を専攻。2人は在学中に和のデザインなどにひかれ、卒業後、学校の外国語指導助手(ALT)として2017年に来日した。

 兄はサイクリングが趣味。兵庫県姫路市の学校で働いていた時、朝来市を訪れた。同市の人や自然、神子畑(みこばた)選鉱場跡などに魅せられた。市の地域おこし協力隊に、札幌市の学校に勤めていた弟とともに応募し、20年8月に採用された。

 兄は地元の観光協会などの支援を受け、22年12月、道の駅あさご内に「サイクリングステーションあさご」を立ち上げた。ここを拠点に、地域のサイクリングツアーをする「ASAGO CYCLING(アサゴ サイクリング)」の運営も始めた。

 「鉱山のまち」を体験できるツアーを用意し、ツアーガイドは兄が自ら担当する。レンタサイクル、サイクリング用品の販売、修理などもする。客の90%がインバウンドで、フランス、スペイン、オランダなど欧州からが多いという。

 神子畑選鉱場跡には今年、遺構を背景に「映える写真」を撮影できる赤色のフォトフレーム(縦2メートル、横3メートル)ができた。フレームのデザインは兄が担当し、フレーム下部には自転車用のスタンドもある。

 「日本人も文化も大好き。県によっていろんなことが違うのも面白い。これからも朝来を拠点に、ずっと暮らしたい」

 弟は、鉱山の町だった生野地区の空き家を活用したゲストハウスを計画。明治時代に建てられた市指定文化財の旧生野鉱山職員宿舎「甲社宅」2棟で、宿泊施設「生野ステイ」を21年にオープンした。

 昨年以降、外国人客が増えた。現在は英米やオーストラリア、香港、シンガポール、台湾など7、8割がインバウンドという。「伝統的な日本の家を体験したい、という人が来るようだ。泊まってよかったという声が多い」

 いくの地域自治協議会事務局長の小島公明さん(67)は、「五右衛門風呂もある古い建物に泊まる人がいるのかと思ったが、レハンは『ここがいい』と。日本語と英語のホームページの立ち上げから予約受け付け、宿泊のセッティングまでを担ってくれた」という。

 市の担当者は、「ケビンのサイクリング事業とレハンの宿泊事業を連携させることで、新たな形の観光産業になると考えている」と話している。(菱山出)