小郷(おごう)利幸さん(60)は桜の名所で知られる津山市の津山城跡(鶴山公園)の近くにある津山郷土博物館の館長を務める。同市は奈良時代には国府や聖武天皇の命令で国分寺が建設されるなど古くから政治・文化の中心として栄えてきた。郷土の魅力を、市民や観光客にわかりやすく発信するよう心がけている。

 博物館では収蔵品の目玉の一つ、県指定重要文化財「江戸一目図屛風(ひとめずびょうぶ)」を5月6日までの約1カ月間、公開している。江戸時代に浮世絵師から津山藩のお抱え絵師になった鍬形蕙斎(くわがたけいさい)(生年不詳〜1824)が描いた鳥瞰(ちょうかん)図で、東京スカイツリーの建設地選定の資料にもなったことで知られる。

 レプリカが市役所に展示されているが、博物館にある実物について「絵の具の濃淡や奥行き感があり、江戸の城下町での生活ぶりを生き生きと描いている」と、その魅力を評す。

 専門は考古学。岡山市出身で、奈良大で考古学を専攻した。卒業論文のテーマは弥生時代の墳墓。1988年4月、博物館の開館と同時に学芸員として赴任。2年後に津山弥生の里文化財センター(同市沼)に異動し、2020年まで埋蔵文化財の発掘に携わった。

 1995年には弥生時代後期(約1800年前)の集落遺跡「有本遺跡」(同市下田邑)の墳墓群で、首飾りと思われる青白色のガラス製管玉(くだたま)の出土に立ち合った。

 長さ約2センチの管玉が17点出土し、成分分析の結果、人工的につくられた顔料「漢青(かんせい)」が使われていたことが判明。中国・秦の始皇帝の兵馬俑(へいばよう)の着色にも使われていた顔料だった。漢青が国内で確認されたのは初めてだった。「当時の津山の交流の広さがわかる。管玉は祭祀(さいし)に携わっていた人が持っていたのでしょう」

 市内は「江戸時代の地図でも回れるほど」古い街並みが大切に保存されているという。「まず博物館で津山の魅力を知ってもらってから、まち歩きをしてほしい」(礒部修作)

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〈津山郷土博物館〉岡山県津山市山下(0868・22・4567)。1988年、同市の旧庁舎本館を改修して開館。地質時代から現代までの資料約10万点を収蔵。建物は33年の完成で、国の登録有形文化財となっている。入館料は一般300円、高校・大学生・65歳以上200円。