群馬県藤岡市岡之郷の関越自動車道で高速ツアーバスの乗客7人が死亡した事故から29日で12年になった。現場近くの高架下で遺族ら約40人が集まり、献花台に花や線香を手向けた。

 事故は2012年4月29日午前4時40分ごろに発生した。金沢駅発東京ディズニーリゾート(千葉県浦安市)行きの高速ツアーバスが道路脇の防音壁に衝突。乗客7人が亡くなり、運転手を含む39人が重軽傷を負った。

 遺族らは日が昇り始めた午前4時40分、近くの観音寺の名誉住職・広瀬雅敏(がびん)さん(78)の読経とともに献花台に花を供え、手を合わせた。

 事故当時バスに一緒に乗っていた母郁子さん(当時49)を亡くし、自身も重傷を負った富山県高岡市の林彩乃さん(35)は「一年一年経っていくごとに自分の中で整理がついていく。生きていてよかった、助かってよかった、と少しずつ肯定できるようになってきた」と話す。

 母直美さん(当時44)を亡くし、事故後に群馬県警の警察官になった山瀬俊貴さん(31)は、今年3月から高速道路交通警察隊に配属された。「仕事で高速道路上のこの現場を通ることも多々ある。そのたびに『ここにバスがあったんだな』と思ってしまうこともある。自分が警察官になった理由を思い出させてくれる場所でもある。事故が減るよう、活動し続けたい」と語った。

 山瀬さんは石川県能登町出身。元日の能登半島地震にはショックを受けたという。事故当時の自身の経験に重ね、「自分も周りの人の支えがあって警察官になれた。復興に向けて他県から足を運んで支援してくれる人がたくさんいると聞くので、元の生活に一日でも早く戻れるといい」と願う。

 献花台でお経を唱えた広瀬さんは、事故の発見者として当時のことを思い出す。「ひどい光景だった。この目で見たんだから一生忘れられない」

 12年前のこの日、寺の駐車場で掃き掃除をしていると、関越道の方から「ドン」「ガシャン」と大きな音がするのを聞いた。駆けつけると、バスが防音壁に突き刺さり、ラジエーターの水やオイルが漏れ出して高架下がびしゃびしゃにぬれていた。乗客らの苦しそうなうめき声も聞こえたという。

 「年だからいつまでできるか分からないけど、亡くなった故人様が浄土に向かっていくように、私が生きている限りは、命を懸けてこの供養を続けていきます」(中沢絢乃)