福島県内初となる公立夜間中学が16日、福島市で開校した。様々な事情で十分な義務教育を受けられなかった人たちの学び直しの場になる。校名は「福島第四中学校天神スクール」。10代から80代までの男女17人が入学し、新たな学校生活をスタートさせた。

 新入生はアジア国籍の2人を含む福島市の16人と郡山市の1人。入学式で、渡部正晴校長は「仲間とやりとげる達成感や充実感、思い出もつくってほしい」と激励した。

 「夢と願いが実現する場になると信じ、一歩一歩学んでゆく」。福島市の高野吉富さん(64)は新入生を代表して誓いを述べた。若い頃、勉強ができなかった時期があり、日常で目にする英語の理解に苦労した。学び直しの機会を求め、「開校すると知った時、すぐに願書を送った」と言う。

 郡山市の鈴木直幸さん(46)は高校卒業後、造園などの仕事に就いた。関連資格を取ろうとしたが、国語などが苦手で苦労したという。8年前に大けがをし、療養中に「もう一度学びたい」との思いが募った。「本を読んだりしたけど、一人ではなかなか続かなくて」。県外から郡山市に引っ越し、民間の「自主夜間中学」にも通ってきた。けがで障害が残り、今は就労支援の事業所でデータ入力などをしているが、いずれ好きな音楽の仕事をしたいと言う。「将来につながる知識を身につけたい。人生の再スタートへの一歩」と意欲をみせた。

 カンボジア国籍のベン・スレイニッチさん(40)は20年前に来日した。日本語は話せるが漢字が苦手。若い頃は、母国の内戦で勉強できる環境ではなかったといい、新たな学びの機会に「うれしい」と目を輝かせた。

 公立夜間中学は、中学校を卒業できなかったり、不登校などで十分な教育を受けられなかったりした人のほか、日本の義務教育に相当する教育を受けられなかった外国籍の人が対象になる。

 天神スクールは、福島第四小学校の敷地内にある市総合教育センターに開校し、月〜金曜日の夕方から40分ずつ4教科の授業がある。全県から入学でき、外国籍の人のための日本語指導員を含む教職員15人が配置された。

 教員は夜間中学の理念に賛同し、県教育委員会の公募に応じて集まった。国語を担当する諸井美香教諭(56)は、これまで不登校だった子の相談に乗り、中国の日本人学校で教えた経験もある。「環境が限られると学べない人もいて、幅広い教育の必要性を感じていた。一人ひとりに達成感を持ってもらえるようにしたい」と話す。

 文部科学省は都道府県や政令指定都市での公立夜間中学の開校をめざしている。昨年4月時点で23の都道府県・政令指定都市に44校。東北では昨年開校した仙台市に続き、福島市の天神スクールが2校目になる。(荒海謙一)