80回目のモナコGPとなった2023年第7戦。近年稀に見るタイム更新合戦が繰り広げられた予選、そして突然の降雨に翻弄された決勝をマックス・フェルスタッペン(レッドブル)が制し、ポール・トゥ・ウインで今季4勝目を飾りました。予選が進むにつれて各車が続々とタイムを上げた要因、そして複数のドライバーが決勝で悩まされた、雨でブレーキの温度が上がらなくなる理由について、元F1ドライバーでホンダの若手育成を担当する中野信治氏が独自の視点でレースを振り返ります。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
伝統のモナコGPでしたが、まずは予選が近年稀に見る大接戦でとても面白かったですね。最終的にはマックス・フェルスタッペン(レッドブル)がポールポジションを獲得しましたが、レッドブル、フェラーリだけではなく、アストンマーティンやアルピーヌも印象的な走りをみせました。
各チームのマシンはストレートスピードや、コーナーの出口の速さやブレーキングと、タイムを稼ぐ場所はそれぞれ異なるのですけど、ドライバーがマシンのポテンシャルを出し切って1周を終えると、ほぼ同じタイムという状況で、これぞF1と感じました。
セッションが進むにつれて各車続々とタイムを上げましたね。その要因は、当然路面のレボリューション(タイヤラバーが乗ることによる路面グリップの改善)が大きかったというのもありますが、私はドライバーの目が慣れてきたからという理由もあったと思います。モナコだけではなく、特に市街地コースでは走れば走るほど目が慣れてきます。この目の慣れは、実は結構大切です。
道幅がかなり狭く、当然ガードレールにも囲まれているサーキットなので絶対速度は低いのですが、ほんの少しの違いのブレーキングポイントやガードレールの間合いを見極めるとなると、1回目のアタックよりは2回目、3回目の方が見えてきます。その次元だと見えてくるというよりも、体が反応すると言った方がいいかもしれません。そこがモナコのようなコースでタイムを上げていくには一番重要な要素なのかなと思います。
ドライバー自身がどういうふうにクルマのセットアップを含め、いかに自分を予選のここ一番のアタックというタイミングまでに高めることができるのかが、勝敗を分ける鍵になると思います。アプローチとしてはどんなサーキットでも基本は同じですが、モナコはドライバーの感性や感覚的なものに左右される度合いが大きいサーキットだと思います。
そんななか、(角田)裕毅も素晴らしい予選の走りで今季2度目のQ3進出を果たして9番手を獲得しましたし、Q1では2番手タイムも刻みました。そこでふと「日本人はモナコのようなサーキットが得意なのかな」というふうに思ったりもしました。
私自身もモナコが好きで得意だったのですけど、モンテカルロ市街地コースは、路面のミュー(摩擦係数)が低く、アンジュレーション(うねり)もすごくあります。そのアンジュレーションに合わせてステアリングを切る、縁石とアンジュレーションの間にある溝のような部分にタイヤを落としてクルマの向きを変えるなど、いろいろと細かいテクニックを求めるコースです。
そういった数えきれないほど散らばる細かいテクニックの要素を、日本人は重箱の角をつくようにひとつひとつ拾っていったりすることが得意なのかなと。ノブ(松下信治)が2016年にGP2(FIA F2の前身)で、(岩佐)歩夢が今回のスプリントレースで勝ったりと、よくよく考えれば日本人とモナコの相性は悪くはないのかなと思います。
ちなみに、今は縁石とアンジュレーションの間にある溝や段差は、路面の改善で小さくなったように思いますが、私が現役のころ(1997〜1998年)はモロでしたね(笑)。
■雨でブレーキの温度が上がらなくなる理由
決勝はフェルスタッペンが優勝しましたが、レースでは中盤に降り出した雨の対応が大きなポイントになりました。降り始めはコースの半分が雨、半分が晴れという状況となり、雨が降り出したその周にはピットに入らなかったクルマもありました。
当然モナコは路面のミューが低いので、雨が降り出すととても滑りやすいです。ですので、ドライバーとしては「早くタイヤを替えたい」に尽きると思います。スリックタイヤで雨に足もとをすくわれてガードレールにマシンを当てて壊してしまうことが一番やってはいけないことですから。
ですので、チームからの指示や作戦でコース上にステイすることとなったドライバーはみんな嫌だったと思いますね。それでも、スリックタイヤで雨の中を堪えて、ほぼ大きなアクシデントもなくピットまでマシンを戻すことができたF1ドライバーのすごさをみることができたと思います。あの姿を見て私は「やはりF1ドライバー凄いな」と思いました。
その後、裕毅やランス・ストロールがブレーキの温度が上がらないということを訴え、実際に走りも苦労していました。『雨が降った程度でブレーキの温度が上がらなくなるものなの?』と思う方もおられるかもしれませんので、ご説明しますと、雨が降るとブレーキロックしやすくなるので、ドライと同じ踏力ではブレーキが踏めなくなります。ブレーキを使わなくなると、その分ブレーキに熱が入らなくなります。
F1ではカーボンブレーキを使用しており、ドライコンディションだとかなり強くブレーキを踏み、カーボンブレーキを発熱させて減速しています。カーボンブレーキにはある一定の温度まで上がればよく効くという狙いどころがあり、通常はドライコンディションに合わせて、ブレーキダクトを塞いだりして調整し、その狙い(の温度)を定めています。
ドライから突然雨が降り出すと、ブレーキをガツンと踏むとすぐにブレーキロックしてしまうので、ブレーキを踏めなく(ドライ時よりも踏力を弱めるしかなく)なります。ブレーキを踏めなくなると、ブレーキの温度は上がらなくなりますので、効きも悪くなります。ただ、モナコは絶対速度も遅いですし、ブレーキもそこまで強く踏むコースではないので、そういった状況に陥ってもなんとか対処できそうなコースではあるのです。
ですので、裕毅やストロールなどは何かしらのブレーキやそのほかの部分でマシンにトラブルがあったのかもしれないなと思います。これはドライビングスタイルの違いで温度が上がりやすい、上がりにくというものではありません。ちなみに、雨粒や水飛沫が触れることでブレーキディスクやパッドが冷えるということは、ほぼありません。
■ホンダのF1復帰は若手ドライバーにとって大きな意味がある
モナコGP直前にホンダが2026年よりアストンマーティンF1にパワーユニットを供給するというニュースが入ってきました。ホンダがF1に復帰することになったから、若いドライバーが世界に出られるというわけではないのですけど、やはりF1という世界との距離は縮まると思います。
そういった意味でも今回の発表は本当に素晴らしく、私自身嬉しかったですね。大きな夢を持ってレースに取り組んでいる若いドライバーたちにとっては、すごく大きな意味がある発表だったと思います。そして我々育成プログラムをやらせていただいている立場の人間としても、モチベーションが上がる発表でした。改めて、彼らを世界に連れて行ってあげたいと強く思います。
私も2年間F1を戦わせていただき、その世界がどれだけ素晴らしく、そしてどれだけ厳しいものなのかということは多少なりとも知っているつもりです。F1の本物の世界、F1の本物の戦いに、今スクールに来ている若手ドライバーたちを連れて行ってあげたいという気持ちがすごくあります。
やはり、夢があるということは若い子たちにはとても大切なことです。夢がないと頑張れませんし、力も発揮できないとも思います。若いドライバーたちには明確な夢や目標を持って戦ってほしいし、それが彼らの能力を引き出すための一番の近道でもあると思います。その夢を繋いでくださったホンダには本当に感謝しています。今後が楽しみですし、絶対に彼らを世界に連れていきたいと考えています。
中野信治(なかの しんじ)
1971年生まれ、大阪府出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在はホンダ・レーシング・スクール・鈴鹿の副校長として後進の育成に携わり、インターネット中継DAZNのF1解説を担当。
公式HP:https://www.c-shinji.com/
公式Twitter:https://twitter.com/shinjinakano24
【中野信治のF1分析/第7戦】モナコGPの予選が白熱した要因と、雨でブレーキ温度が上がらなくなる理由
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