2023年にスーパーGT、スーパーフォーミュラでダブルタイトルを獲得したToyota Gazoo Racing(TGR)の宮田莉朋選手。2024年は海外に拠点を移してFIA F2、ELMS(ヨーロピアン・ル・マン・シリーズ)に参戦しつつ、WEC(FIA世界耐久選手権)にテスト・リザーブドライバーとして帯同し、さらにIMSAなどにも……と、三刀流(以上?)の複数カテゴリーに参戦します。
初めての世界挑戦、初めてのチーム、マシン、そして初めての海外生活などなど、とにかく気になる宮田選手の1年を、オートスポーツwebでは連載コラムという形で毎月お伝えします。
記念すべき初回は、IMSA開幕戦デイトナ24時間レース参戦のため滞在中のアメリカからお届けします。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
読者のみなさん、こんにちは! 今年、オートスポーツwebでコラムを始めることになりました、宮田莉朋です。
初めての方もいらっしゃるかもしれないので、自己紹介から始めますね。名前の読みは『みやたりとも』、1999年8月10日生まれ、神奈川県逗子市出身です。
2023年からそれまで参戦していたスーパーフォーミュラ、スーパーGTに加えて、TGR WECチャレンジプログラムの一員となって、TOYOTA GAZOO RacingのWECチームに帯同したり、ドイツ・ケルンにあるTGR-E(トヨタ・ガズー・レーシング・ヨーロッパ)でシミュレーターテストなどを担当してきました。
レースでは2023年にスーパーフォーミュラとスーパーGT・GT500クラスのWタイトルを最年少記録で手にすることができ、2024年からは海外での挑戦を始めます!
具体的には、TGRでWECのテスト&リザーブドライバーを務めながら、F1直下のFIA F2選手権に全戦参戦します。また、欧州を転戦するELMSヨーロピアン・ル・マン・シリーズにもエントリーして、耐久レースの経験を積むことになります。1月には、アメリカのIMSAウェザーテック・スポーツカー選手権開幕戦のデイトナ24時間にも参戦することが決まっています。
改めて、これらの機会を与えてくださったモリゾウさんはじめ、TGRの皆さんに感謝しています。
このコラムでは、世界を転戦する僕の近況をお伝えしながら、レースの裏側や各国のモータースポーツ文化、アスリートとしての成長ぶりなどを感じてもらえたら嬉しいです。モータースポーツにハマってくれる人、応援してくれる人が増えたらいいなと思っていますので、どうぞ1年間よろしくお願いします!
■ホテル暮らしの日々で困ること
さて、ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、FIA F2への参戦が決まったのは、本当に昨年のシーズンオフに入る直前でした。11月上旬頃までは、2024年も日本を拠点に……と考えていたのですが、年間14ラウンドあるF2を中心に参戦することになったこともあり、今年から欧州に拠点を移すつもりです。
……ですが、まだビザも取得できていないし、何より住む家も決まっていない状態なんです。11月末のF2アブダビテストに参加して以降、アメリカに渡ってIMSAのテストに参加して、ドイツのTGR-Eに行って……と毎週何かしら予定がありました。クリスマス前にいったん日本に帰国しましたが、プロスポーツ大賞などを受賞したり、神奈川県の黒岩祐治知事を訪問したり、チームのイベントに参加したりと、とにかくとても忙しかったんです。
年末年始も、いままで日本で暮らしていた部屋を引き払うための引越し作業に追われ、そのまま妻の実家で正月を過ごして、正月早々日本を飛び出し、F2で所属するロダン・モータースポーツでシート合わせ、そしてそのあとはWECのテスト、その後大西洋を渡ってアメリカへ、という流れでした。いやぁ、なかなか落ち着くヒマがありません(笑)。
そんなわけで、いまは“住所不定”、ホテルを転々とする日々です。インターネット回線が速いわけでもないので、オンラインでゲームしたりするのにも不自由しますし、今年参戦するレースの映像やデータをしっかり見るとか、そういった作業もなかなか思うようにできません。落ち着かないし、ホテル暮らしは正直、ちょっとストレスですね。
ホテル暮らしで強いて良いところをあげるなら、ホテル内にジムがあるということでしょうか。レースやテストに向けた身体づくりをすることはできるので、そこは助かっていますね。
■日本での経験がさっそく活きたデイトナテスト
いま現在(1月中旬)は、バッサー・サリバンからデイトナ24時間レースに出場するため、アメリカ・フロリダ州に来ています。先ほども触れたように、僕自身は12月のテストで初めて実際のデイトナ・インターナショナル・スピードウェイを走りました。2日間ありましたが、2日目はBoP(性能調整)テストがメインだったので、自分の走行は初日が中心でした。
僕らのレクサスRC F GT3は2023年にチャンピオンを獲っていることもあり、BoP(バランス・オブ・パフォーマンス/性能調整)の面では厳しい状況に置かれています。実際、テストで走ってみても結構遅い(苦笑)。デイトナはインフィールドよりもオーバル部分で速い方がレースでは有利なのですが、僕らはそこで苦戦していますね。
ドライバーが4人いることもあり、正直、僕はまだあまり走り込めてはいません。ですが、これまで世界を目指すためにeスポーツやシミュレーターでやってきた経験は、結構活きていると思います。デイトナではスポッター(外から無線で自車の周囲の状況を教えてくれる)が付くのですが、シミュレーターのときからスポッターありで走行していたこともあり、実際にプロトタイプカーとの混走になっても戸惑うことはあまりありませんでした。
ちなみにスポッターさんは「もう、いらないよ!」って思うくらい、ずーっと喋ってくれます(笑)。オーバルだけでなく、インフィールドの部分もしっかりと無線を入れてくれるんです。僕は去年、日本でレースをしていたときから「無線はどこでも入れてください」とチームに伝え、意識的にそういう環境に身を置いていたので、スポッターからの無線がずっと途切れない状態でも、集中が乱されるといったことはありません。
コース自体もシミュレーターのおかげで、最初からチームメイトと変わらないタイムで走れました。ただ、オーバルからインフィールドに入る1コーナーだったり、その後のインフィールドのセクターは路面も荒れていて、結構難しいんですよね。RC Fは本来高速コーナーが得意なのですが、そういったコーナーがないので……そこは想像どおりの苦戦というか、そこをどう乗り越えて戦おうか、という心境です。
決勝レースは1月27〜28日です。ぜひ日本からも応援お願いします!
■F2はチーム体制変更も、モチベーションは高い
では、今年僕が走る3カテゴリーについて、それぞれの近況と意気込みをお伝えしていきましょう。
F2に関しては、ロダン・カーリンからロダン・モータースポーツへと体制が変わるタイミングで、自分が加入することになります。このニュースが気になった方も多いのではないかと思いますが、僕自身はそういった話は11月のテストの時から聞いていました。
チームスタッフは、これまでずっとカーリンに所属していた人たちばかりです。ただ、数々の歴史を作り上げてきたトレバー(・カーリン)がいなくなるということで、その役割を誰ができるのか、というのが現実的な課題ですね。でも、現場のモチベーションはすごく高い。みんな「トレバーがいなくなることを、マイナスにしたくない」という思いが強いんです。そこはポジティブですね。
1月4日には、今シーズンに向けたシート合わせがあり、ファクトリーに行きました。そこではアブダビでのテストも振り返りましたし、『今年、レースの前後はこういう形で進めていきたい』といった話し合いはしっかりできたかなと思います。
チームの運営の部分はちょっと変わりますが、僕がやれることは、本当に一戦一戦、ベストを尽くして、チームのモチベーションを高めていくことだけ。今年はマシンも変わるタイミングなので勢力図がリセットされる部分もあるでしょうし、チームのこれまでの蓄積と、僕が日本で積んできた経験をうまく合わせてパフォーマンスを発揮できたらなと思っています。
WECに関してはリザーブという形で所属し、レギュラードライバーがレースに出られなくなったときに代わりに乗ることになります。どんな状況であれ、チームに貢献できるように準備していきたいです。
先日、GR010ハイブリッドの実車のテストも初めて済ませました。初めてなので当然課題は出ましたが、そこまで大きなものではなく、「こうすれば、いけそうだな」というのは個人的には見えているので、次に乗る機会があれば、また成長できるのではないかと思っています。
ELMSに関しては、クール・レーシングからLMP2クラスへの参戦となります。同じマシンをシェアするマルテ・ヤコブセンは僕と同じような境遇で、プジョーの育成ドライバー。彼は昨年までもクールからLMP2に出場していてプロトタイプカーの経験は豊富ですし、僕にとって良いベンチマークになるはずです。
また、クール・レーシングとしてはもう1台LMP2にエントリーさせているのですが、そちらの車両には昨年F2でランキング2位だったフレデリク・ベスティ、アルピーヌからWECハイパーカーに参戦するフェルディナンド・ハプスブルク、そして昨年クールでLMP3タイトルを獲ったドライバーが参戦するので、結構手強いラインアップなんですよ。学べるところはしっかり吸収して、自分の成長につなげたいと思います。
余談ですが、フェルディナンド(ご存知、ハプスブルク家の末裔です)とは去年のWEC富士のあとに東京でご飯を食べに行ったりもして、結構仲良くなっています。
クール・レーシングが彼らのクルマの体制を発表する前から、やたらメッセージが来るなぁと思っていたのですが、まさか同じチームでレースに出ることになるとは……。彼もデイトナ24時間に出るので、空き時間にご飯でも食べに行くつもりです。「歴史の教科書で名前を知って以来、ずっといちファンだから」と伝えてあるし、サインをもらおうかなと(笑)。気さくなナイスガイなので、このコラムにも今後登場してもらいたいと思っています。
というわけで、まずは2024年初レース、デイトナ24時間を頑張ります! 次回のコラムをお届けする頃には、おそらくドイツになると思いますが、ヨーロッパでの家が決まり、いろいろと落ち着いていることを願っています(笑)。
⚫︎今月の“リトモメーター“
三刀流+moreとして世界のさまざまなサーキットを訪れる2024年の宮田選手の移動距離を、フライトマイルで計測。ご本人のアプリのスクショを公開させていただきます。
今回、1月4日〜1月17日の期間で……
6回の搭乗
12,492マイル
搭乗時間 31時間18分
正月早々、ご苦労さまです! そして、第2回をお楽しみに。
⚫︎今月のプライベート秘蔵(?)ショット
新連載【宮田莉朋“三刀流“コラムLAP 1】正月早々、3大陸横断。F2にWECにELMS、初めての世界挑戦の1年をお届けします
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