高い人気を誇る国内最高峰のハコ車レース『スーパーGT』の今シーズン第1戦が、4月13日(土)から14日(日)にかけて、岡山県の岡山国際サーキットで開催される。ここでは全8戦で争われる2024年シーズンの開幕を前に、“GT500”と“GT300”という異なるクラスの中でより出走台数の多い後者にスポットライトを当てながら、シリーズの基本情報や開催スケジュール、注目の参戦車両やドライバー、今シーズンの変更点などを整理して紹介する。
まずはスーパーGTとは何かを簡単に説明しよう。同シリーズは、市販車をベースにしたレーシングカーを使って争われる“GT(グランドツーリング)カーシリーズだ。始まりは1994年に誕生したJGTC全日本GT選手権。『SUPER GT(スーパーGT)』という名称は2005年から使用されており、同年よりFIA国際自動車連盟公認のインターナショナルシリーズとなった。現在は国内戦のみとなっているが、コロナ禍以前はマレーシアやタイでの海外ラウンドが毎年のようにカレンダーに組み込まれていた。
日本におけるモータースポーツのシリーズ戦としては国内最大級の観客動員を誇るスーパーGTの魅力は、40台を超える出走台数と多彩なマシン、魅力的なチーム、そしてドライバーたちが繰り広げる手に汗握るレースだ。これらを作り出す要素のひとつに1994年以来続く2クラス制と、速さの異なるGT500とGT300が同一のレースに出走する“混走”がある。また1台のマシンをふたり以上でシェアして戦うチーム戦であることや、後述するサクセスウエイトなどがポイントになっている。
■国内外の10メーカー、14車種が参戦するGT300クラス
ここからはGT300クラスに重きをおいて説明していこう。ニッサン、トヨタ、ホンダがしのぎを削るGT500クラスが3車種15台で争われるのに対し、GT300クラスのマシンは実に多種多様。先の3社に加えてスバル、レクサス、アストンマーティン、メルセデスAMG、BMW、フェラーリ、ランボルギーニという国内外の自動車メーカー10社から14もの車種がグリッドに並び、総数は27台に上る。GT500とGT300各クラスのマシンはヘッドライトとゼッケンの色、フロントウインドウ上部を横断するハチマキのカラーで識別可能だ。GT500車両はいずれも白。後者はイエローとなっている。
GT300クラスのマシンはスーパーGTのテクニカルレギュレーション(技術規則)に定められた3つの規定に基づいて開発される。そのひとつは、市販車両をベースに各チームが独自に開発することができるGTA GT300(61号車SUBARU BRZ R&D SPORTなど)。ふたつめは、国内外の自動車メーカーが製作し販売するFIA-GT3(88号車JLOC Lamborghini GT3など)。最後はシリーズを運営するGTアソシエイション(GTA)が供給する共通モノコックやエンジンなどをベースにして各チームが開発することできるGT300MC(マザーシャシー/5号車マッハ車検 エアバスター MC86 マッハ号のみ)だ。
これら3つの規定に準拠して製作された多彩なマシンたちは、最低重量やエンジンへの吸入空気量を制限するエアリストリクター、もしくはターボの過給圧のいずれかを調節するBoP(バランス・オブ・パフォーマンス)と呼ばれる性能調整によって、各車が限りなく近い性能領域で競い合うことが可能となっている。
使用するレーシングタイヤの銘柄はチームごとに異なり、今季はヨコハマ、ダンロップ、ブリヂストン、ミシュランの計4メーカーが同クラスにタイヤを供給する。最多採用はヨコハマのアドバンタイヤで計15台。次いでダンロップが5台、ブリヂストン4台、もっとも少ないミシュランが3台だ。
● SUBARU BRZ R&D SPORTの主要諸元(GTA GT300/2023年仕様)
ベース車両スバルBRZ全長4596mm全幅1950mm全高1160mmホイールベース2696mmエンジン水平対向4気筒シングルターボエンジン型式EJ20排気量1994cc最高出力450ps以上/6250rpm最大トルク55.0kgf.m以上/5500rpm車両重量1150kg駆動方式FR(フロントエンジン・リヤドライブ)ミッションヒューランド製6速シーケンシャル+パドルシフトフロントサスペンションダブルウィッシュボーンリアサスペンションダブルウィッシュボーンフロントブレーキAP製6ポットリヤブレーキAP製4ポットタイヤDUNLOP 330-710-18(フロント・リヤ)
■チャンピオンシップとサクセスウエイト
スーパーGTのレースウイークは、予選日(おもに土曜日)に行われる公式練習から走行が始まる。同日午後に予選が行われるが、そのフォーマットについては“2024年シーズンの変更点”の項で補足する。決勝は翌日(主に日曜日)に行われ、レース前にはマシンの最終チェックを行うウォームアップ走行の時間が設けられる。
シリーズではGT500とGT300の各クラスに、ドライバー選手権とチーム選手権のチャンピオンシップタイトルが懸けられている。1シーズンを戦い抜いたのち、各ラウンドの予選と決勝の成績に応じて与えられるポイントの合計点がもっとも多いドライバーとチームが、その年のシリーズチャンピオンとなるわけだ。
決勝でのポイントは1位から10位までに与えられ、配点は優勝者(車)から順に20-15-11-8-6-5-4-3-2-1ポイントとなっている。チームポイントはこれに加えてトップと同一周回、または1周おくれでフィニッシュした場合に3ポイント、2周おくれで2ポイント、3周以上のおくれでは1ポイントが追加される。
また、予選でポールポジションを獲得した予選出走ドライバーには各3ポイントが付与され、予選2番手に同じく2ポイントが、同3番手に1ポイントが与えられる。
このシリーズポイントに関わってくるのが、サクセスウエイトハンデ制というレギュレーションだ。サクセスウエイトというのはマシンに搭載する重りのことで、各マシンはドライバーが獲得している累積ポイントに対して2倍の数値のウエイトをマシンに搭載しなければならない。好成績を収めたクルマほど重くなり戦闘力が削がれることになるため、独り勝ちを許さずより多くのマシンに優勝や上位入賞のチャンスが与えられる仕組みだ。このポイント×2kgのハンデは第2戦から第6戦まで適用される。
シーズン終盤の第7戦では1ポイント×1kgとなり、開幕戦と最終第8戦は全車ノーウエイト(0kg)での真っ向勝負となる。GT300クラスのウエイト上限は80kgだ。
決勝は予選で決めたグリッド順に全車がニ列縦隊で並んだ状態から、ローリングスタート(走行しながらのスタート)方式によりレースが開始される。レース中はドライバー交代をともなうピット作業を1回以上行わなければならない。これはスーパーGTの特徴のひとつであるふたり以上のドライバーで1台をシェアするルールと、ひとりのドライバーがレース全体の3分の2以上の距離は走ってはならないというルールによるものだ。
通常、このピットインではマシンへの給油やタイヤ交換作業が行われるが、チームがマシンを呼び戻すタイミングや作業時間はレース展開や順位争いを左右するポイントとなることが多いため、注目して見ておきたいところだ。
■2024年のレースカレンダーとレギュレーション変更
岡山ラウンドにて幕を開ける2024年シーズンに向けては複数の変更点が確認されている。まずひとつめはレースフォーマットだ。スーパーGTでは300kmを基本に、これまで1000kmや500kmなどさまざまなスタイルのレースが展開されてきたが、2023年は300kmと450kmというふたつのスタイルが採られていた。2024年に向けては450kmレースが消滅。代わって350kmと3時間のフォーマットが新たに採用され、シリーズ初となる時間制レースが行われることとなった。この内、300km以外のレースでは第3ドライバーの登録が可能となる。今季の年間スケジュールは下記のとおりだ。
●スーパーGT 2024年シーズンスケジュール
RoundDateCircuitFormat第1戦4月13〜14日岡山国際サーキット300km第2戦5月3〜4日富士スピードウェイ3時間第3戦6月1〜2日鈴鹿サーキット3時間第4戦8月3〜4日富士スピードウェイ350km第5戦8月31日〜9月1日鈴鹿サーキット350km第6戦9月21〜22日スポーツランドSUGO300km第7戦10月19〜20日オートポリス3時間第8戦11月2〜3日モビリティリゾートもてぎ300km
変更点のふたつめはタイヤセット数の減少だ。タイヤの持ち込みセット数は昨年から1セット少ない計4セット(16本/300kmレースの場合)となり、これと並行して予選ではQ1とQ2を同一セットで走らならければならない、というルールに変更された。さらに、決勝スタートも予選で使用したタイヤを使う必要がある。
その予選は従来のノックアウト方式から刷新され、Q1とQ2のタイム合算方式に改められた。GT300クラスの新しい予選フォーマットでは、前戦までのポイントランキングに基づいて振り分けられたA組とB組でそれぞれ予選Q1が行われたのち、各組上位8台を集めた“アッパー16”とそれ以外の“ロワー17”に分かれてQ2が行われることとなる。
両グループの間ではアッパー側の下位4台(暫定13〜16番手)とロワー側上位4台(暫定17〜20番手)のポジションが、それぞれの合算タイムに準じて入れ替えられる。しかし、雨天時や路面が濡れている状況でレースコントロールより「ウエット宣言」が出された場合は、Q1/Q2タイムの合算およびアッパー16とロワー17の一部入れ替えは行われない。
●予選Q2後の“アッパー16”と“ロワー17”の入れ替えイメージ
ポジションレギュレーション運用例予選1番手〜12番手アッパー16の上位12台アッパー16上位12台予選13番手アッパー16の下位4台とロワー17の上位4台アッパー16の13番手予選14番手アッパー16の14番手予選15番手ロワー17の1番手予選16番手アッパー16の15番手予選17番手ロワー17の2番手予選18番手ロワー17の3番手予選19番手アッパー16の16番手予選20番手ロワー17の4番手予選21番手以下ロワー17の5番手以下ロワー17の5番手以下
このほか新シーズンに向けては、昨季2023年は保留となっていたカーボンニュートラル・フューエル(CNF)を50%含んだ指定燃料『GTA R50』の使用義務付けや、リザーブドライバー制度の導入、競技での安全性向上を図る対策として追加のウエイトが搭載されることとなった。追加ウエイトは前述のBoP(性能調整)やサクセスウエイトとは別に重量が加わることとなる。コーナーリング速度抑制のために追加される重量は33〜52kgで、GTAによって車種ごとに設定された。
■新造のフェアレディZ、新型フェラーリGT3が登場。車両炎上のGRスープラは復活
前年覇者、埼玉Green Brave(52号車Green Brave GR Supra GT)がタイトル防衛を目指すことになる2024年シーズンに、群雄割拠のGT300クラスに参戦するマシンは計27台。このうち新規参戦チームはPONOS RACING、HELM MOTORSPORTS、D’station Racingの3チームだ。藤井誠暢とWEC世界耐久選手権チャンピオンのマルコ・ソーレンセンが新型アストンマーティン・バンテージAMR GT3をドライブするD’station(777号車 D’station Vantage GT3)は、2020年以来のシリーズ復帰となる。
2020年に平木湧也と玲次の兄弟によって立ち上げられ、わずか2年でスーパー耐久シリーズのST-Xクラスでチャンピオンに輝いたHELM(62号車HELM MOTORSPORTS GT-R)は、チーム代表を兼務する平木湧也とGT500で2度タイトルを獲得した平手晃平のペアに、第3ドライバーの平木玲次を加えた体制でスーパーGTでの初年度を戦っていく。同チームは日産モータースポーツ&カスタマイズ(NMC)のオフィシャルパートナーチームであることから、マシンはニッサンGT-RニスモGT3だ。
3つめの新規チームであるPONOS RACINGは、経験豊富なケイ・コッツォリーノとフェラーリGTワークス史上初の女性ドライバーであるリル・ワドゥを擁し、跳ね馬の最新GT3カー、45号車PONOS FERRARI 296を走らせる。D’Stationと同様に強力コンビと新型GT3マシンの組み合わせがもたらすパフォーマンスは大いに注目したいところ。
今季のルーキードライバーはともにWECと並行参戦となるソーレンセンとワドゥ、PACIFIC RACING TEAM(9号車PACIFIC ぶいすぽっ NAC AMG)の第3ドライバーに指名された藤原優汰、同じく第3ドライバー登録でTEAM UPGARAGE(18号車UPGARAGE NSX GT3)に加わったホンダ育成の三井優介、ベテラン荒聖治の相棒としてBMW Team Studie x CRS(7号車Studie BMW M4)に迎えられたニクラス・クルッテン、apr(30号車apr GR86 GT/31号車apr LC500h GT)からGT300初参戦を果たすFIA-F4チャンピオンの小林利徠斗と同2位の中村仁の計7名となっている。
このほか注目しておきたいのは、GAINERが投入する新型ニッサン・フェアレディZや、土屋武士監督が率いるHOPPY team TSUCHIYAのトヨタGRスープラなど。富田竜一郎と石川京侍がドライブする新型Z(11号車GAINER TANAX Z)はGTA-GT300規定のマシンだが、2度の公式テストには間に合わずぶっつけ本番で第1戦を迎えることとなる。
一方、“ホピ子”の愛称で知られるつちやエンジニアリング謹製のGRスープラ(25号車HOPPY Schatz GR Supra GT)は、2023年シーズン第4戦富士での車両火災から復活を果たした。菅波冬悟と松井孝允がステアリングを握る25号車GRスープラは富士の公式テストを走っており、一定の準備を整えた状態で岡山に向かう。その岡山国際サーキットを“ホーム”とするTeam LeMansは、片山義章とロベルト・メリ・ムンタンが乗り込むマシンをアウディR8 LMSからフェラーリ296 GT3(6号車UNI-ROBO BLUEGRASS FERRARI)にスイッチ。開幕戦は心機一転してのホームラウンドとなる。
国産車と外車、メーカー製とガレージ生まれの手作りマシンが入り混じり、それを駆るドライバー陣では免許取り立ての18歳から世界選手権王者、還暦を超えた大ベテランまで、濃すぎる才能とチームが集うGT300クラス。混沌としたこのカテゴリーで今年なにが起き、誰が笑い誰が泣くのか、その最初の章を埋める開幕戦は今週末にやってくる。サーキットで巻き起こる予想不能なドラマをぜひ、その目で確かめてほしい。
スーパーGTの各レースは2024年シーズンもスポーツ専門チャンネルのJ SPORTSとインターネット経由でパソコンやスマートフォンなどで番組を楽しめるJ SPORTSオンデマンド、動画配信サイトのニコニコにて、予選と決勝の生中継/ライブ配信が行われる予定だ。
■2024年スーパーGT エントリーリスト(GT300クラス)
NoTeamCarDriverTyre2muta Racing INGINGmuta Racing GR86 GT堤優威/平良響BS4GOODSMILE RACING & TeamUKYOグッドスマイル 初音ミク AMG谷口信輝/片岡龍也YH5TEAM MACHマッハ車検 エアバスター MC86 マッハ号藤波清斗/塩津佑介YH6Team LeMansUNI-ROBO BLUEGRASS FERRARI片山義章/ロベルト・メリ・ムンタンYH7BMW M Team Studie x CRSStudie BMW M4荒聖治/二クラス・クルッテンMI9PACIFIC RACING TEAMPACIFIC ぶいすぽっ NAC AMG阪口良平/冨林勇佑YH11GAINERGAINER TANAX Z富田竜一郎/石川京侍DL18TEAM UPGARAGEUPGARAGE NSX GT3小林崇志/小出峻YH20SHADE RACINGシェイドレーシング GR86 GT平中克幸/清水英志郎MI22R’Qs MOTOR SPORTSアールキューズ AMG GT3和田久/加納政樹YH25HOPPY team TSUCHIYAHOPPY Schatz GR Supra GT菅波冬悟/松井孝允YH30aprapr GR86 GT永井宏明/小林利徠斗YH31aprapr LC500h GT小高一斗/中村仁BS45PONOS RACINGPONOS FERRARI 296ケイ・コッツォリーノ/リル・ワドゥMI48NILZZ Racing脱毛ケーズフロンティアGO&FUN猫猫GT-R井田太陽/柴田優作YH50Arnage RacingANEST IWATA Racing RC F GT3イゴール・オオムラ・フラガ/古谷悠河YH52埼玉Green BraveGreen Brave GR Supra GT吉田広樹/野中誠太BS56KONDO RACINGリアライズ日産メカニックチャレンジ GT-R佐々木大樹/ジョアオ・パオロ・デ・オリベイラYH60LM corsaSyntium LMcorsa GR Supra GT吉本大樹/河野駿佑DL61R&D SPORTSUBARU BRZ R&D SPORT井口卓人/山内英輝DL62HELM MOTORSPORTSHELM MOTORSPORTS GT-R平手晃平/平木湧也YH65K2 R&D LEON RACINGLEON PYRAMID AMG蒲生尚弥/篠原拓朗BS87JLOCMETALIVE S Lamborghini GT3松浦孝亮/坂口夏月YH88JLOCJLOC Lamborghini GT3小暮卓史/元嶋佑弥YH96K-tunes RacingK-tunes RC F GT3新田守男/高木真一DL360TOMEI SPORTSRUNUP RIVAUX GT-R大滝拓也/青木孝行YH777D’station RacingD’station Vantage GT3藤井誠暢/マルコ・ソーレンセンDL
【2024年GT300をイチから学ぶ】スーパーカーにレクサス、BRZなど豊富な車種が争う混沌。新予選方式でますます予測困難に
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