すべてが高水準の打撃



今年は7月2日現在、リリーフで3試合の登板に終わっている西純

 指名打者制度がないセ・リーグは「9番目の野手」である投手の打撃が、勝負の分岐点になるケースが少なくない。森下暢仁(広島)、山崎伊織(巨人)、柳裕也(中日)は打撃センスが良いことで知られるが、セ・リーグ球団のスコアラーは「野手でプレーしたらクリーンアップを打てる逸材」として西純矢(阪神)の名を挙げる。

「タイミングの取り方、スイング軌道、コンタクト能力とすべてが高水準。打者一本だったらどんな成績を残すか。『打力のいい投手』の枠に収まるスケールではない。右の強打者になれる可能性を秘めています」

 創志学園高で2年春からエースになり、夏に甲子園出場。打者としても高校通算25本塁打と非凡な才能を発揮していた。3年にU-18代表に選出された際は二刀流で大活躍。W杯でチーム最多の4試合登板して防御率1.35をマークすると、打者でも同大会の本塁打王に輝いた。

 ドラフト1位で阪神に入団後は投手に専念。打撃練習を行うが時間は限られている。にもかかわらず、衝撃的な一打を放った。プロ3年目の2022年。5月18日のヤクルト戦(神宮)に「八番・投手」でスタメン起用されると、2回に左腕・高橋奎二の150キロ直球をすくい上げて左翼席へプロ初アーチ。快速球を完璧に捉えたスイングに球場がどよめいた。投げても1失点のプロ初完投勝利。大谷翔平(ドジャース)を彷彿とさせる活躍ぶりだった。

 この一発がフロックでないことをその後の打撃で証明する。同年10月10日にDeNAと対戦したCSファーストステージ3戦目。6回途中から救援登板すると7回に打席に入り、左腕・エスコバーの内角に食い込む155キロ直球を弾き返し、左翼手の頭を越える二塁打を放った。前出のスコアラーは「あの球は打者でもなかなか打てない。高橋奎二から打ったプロ初アーチもそうですが、内角の球に対して肘をたたんではじき返す技術が非常に高い。坂本勇人(巨人)を彷彿とさせます」と絶賛する。

投手として成長に努力


 もちろん本職は投手だ。同世代の佐々木朗希(ロッテ)、宮城大弥(オリックス)、奥川恭伸(ヤクルト)が一軍の舞台で一足早く活躍している。22年5月に週刊ベースボールのインタビューで、こう語っていた。

「昨年は宮城(オリックス)や奥川(ヤクルト)たちが活躍していましたが、悔しいとか、励みになるということはまったくなかったんです。むしろ、まずは自分のことをしっかりやらないといけない、という危機感のほうがありました。1勝は挙げましたが、自分の中で自分自身の投球に不安があったんです」

 制球力を磨くためフォーム改造に着手した。

「まずはコントロールを考えてショートアームにしたのですが、これだと球速が出なくなってしまい、ボールの回転軸もあまりよくなかったんです。そこで、トップの位置を気にしながらも、足を上げた後、いったん、右腕と右手を下へ降ろしながらもすぐにトップへ早く持っていける位置を探しました。その試行錯誤によってだんだんと現状の投げ方へと変化していきました」

チームが浮上するために


 努力が実を結び、22年は14試合登板で6勝3敗、防御率2.68をマーク。将来を嘱望される右腕は順調に階段を駆け上がっていくかに見えたが、昨年は17試合登板で5勝2敗、防御率3.86。開幕から先発ローテーションに入ったが安定感を欠き、救援に回った時期があった。チームは38年ぶりの日本一に輝いたが、心から喜べたとは言えない。

 今年は開幕をファームで迎え、6月1日に一軍昇格。救援要員で3試合登板して防御率1.93とまずまずの投球内容だったが、チーム事情で26日に登録抹消に。ファームで力を蓄えている。ウエスタンリーグでは10試合登板で3勝4敗1セーブ、防御率2.76。決して悪い数字ではないが、一軍の先発陣に食い込むためには相手を圧倒してほしい。

 セ・リーグは混戦が続く。阪神は7月2日の広島戦(マツダ広島)で延長戦の末に3対0で白星をつかみ、貯金1に。首位・広島と3ゲーム差に詰めた。勝負の夏場は投手力がチームの命運を左右する。西純は一軍のマウンドで輝けるか。バットでも豪快なスイングで打線を勢いづけてほしい。

写真=BBM