政府は、所得に関係なく扶養する子どもが3人以上いる世帯を対象に、2025年度から大学などの無償化を決めました。子育て世帯のアンケート調査をもとに、本当に必要な支援は何か、取材しました。

18年後の支援が少子化対策に繋がるのか

「異次元の少子化対策」の一環として、政府は、所得に関係なく扶養する子どもが3人以上いる世帯を対象に、大学などの入学金や授業料の無償化を、2025年度から始める施策を打ち出しました。多子世帯の教育費の負担軽減を目指すこの動きに対し、CHANTO WEBでは子育て世帯を対象にアンケートを行いました。その結果、政策を支持する声のほか、否定的な意見も聞かれました。

「所得制限なしというのは嬉しい。ただ、上の子が扶養から外れる頃には下の子には適用にならないので、3人全員が対象だとさらに良い」(40代女性)

「少子化が進む日本には必要なことだと思う」(40代女性)

「人口減少を食い止めるために3人以上の子どもにかかるお金をすべて国が負担する仕組みにするべき。子どもを産み育てるのも社会的責任で、社会貢献だと思うので」(30代女性)

「少子化対策なら、産んでからより産む前の対策を強化してほしい」(40代女性)

「3人という人数がひとり歩きして、3人産んだら得と見せかけたいのかもしれないが、不妊治療もして経済的にも1人、2人がやっとという世帯の気持ちも考えてほしい」(30代女性)

教育評論家の親野智可等さんは、この政策では少子化対策にはつながらないと話します。

「日本らしい政策と言いますか、わかりにくく中途半端で不平等な政策といえます。3人年子などのお子さんならともかく、上の子が就職して扶養から外れてしまうと対象にならないというのは、同じく3人育てている家庭にとって不公平ですよね。なぜこういう政策をしようと思うのかが、疑問です。それに、『異次元の少子化対策』といっているわけですが、これではまったく少子化対策にならないと思います。

妊娠中の女性妊娠中の女性のイメージ

「大学が無償になる」と言われたところで、生まれてから18年後のことを考えて子どもを産む方がどのくらいいるでしょう。そして、この政策が今後も続くかどうかもわからない。あまりにも先の不確かな話で、これでは現実味もありがたみもないと思います。

異次元と掲げるくらいなら本当にお金をかけないとならないと思います。今のところ異次元感はありませんね。全国一律で子どもの医療費無料や給食費無料などわかりやすい施策をすれば少しは変わるのではないでしょうか。それに、子育て世代にとって結構な負担になっている習い事の費用の補助をするのもいいと思います。

たとえば自治体が認定した塾や習い事への補助をして、月々の負担を減らしていく。子どもたちも専門の方から学ぶことで能力も上がります。目の前にすぐありがたみがあるものではないと、子どもを産み育てようと思う方は増えないと思います」

少子化対策に本当に必要な支援とは

CHANTO WEBが子育て世帯を対象に行ったアンケートでは、子育てに必要な支援に対してさまざまな意見が聞かれました。

「時短勤務でもフルタイム並みのお給料を補償してほしい」(30代女性)

「不妊治療の金銭的な免除をしてほしい」(30代女性)

「子育て以前の問題で、賃金のアップや出産の無償化、住宅への補助など」(40代女性)

「毎月定額の給付金制度があれば、産みたい方も増えるかもしれない。使い道は自分で決めたい」(30代女性)

「所得制限の撤廃。子どもへの政策は全員を対象にしてほしい」(40代女性)

親野さんは、少子化対策にはさまざまなことへのテコ入れが必要だと話します。

「フランスでは、医療費や授業などさまざまな分野への支援を見直して、出生率が上向きになったそうです。それに、産む前も、産んだ後の環境も大切です。ライフワークバランスで、男性も段々と育休などを取れるようになってきてはいるものの、まだまだ中小企業では難しく日本の労働環境に課題は残ります。

働く母親のイメージ働きながら子育てをする家庭も多い

少子化対策は何かひとつのことをすればいいのではなく、いろいろなところに手を加えていく必要があります。少しずつ動いては来ていますが、どこかピンボケな施策が多い印象です。予算がない中で何かをしていくからこうなってしまうのだと思うのですが、まずは子どもに関する財源を確保していただきたいです。少子化対策は日本の将来に関わる大切なことで、最重要課題です。その一方で、出産を選択しない、またはさまざまな事情から選択できない方も多くいらっしゃいますので、国のお金が納得できる政策となって国の未来に還元できるよう、真剣に取り組んでほしいと思います」

PROFILE 親野智可等さん

教育評論家。本名、杉山桂一。長年の教師経験をもとに、子育て、しつけ、親子関係、勉強法、学力向上、家庭教育について具体的に提案。『子育て365日』『ずるい子育て』など著書多数。Instagram、Threads、X、YouTube、Blog、メルマガなどで発信中。オンライン講演をはじめとして、全国各地の小・中・高等学校、幼稚園・保育園のPTA、市町村の教育講演会、先生や保育士の研修会でも大人気となっている。

取材・文/内橋明日香