静岡市葵区の中心街を歩くと「魔法」をテーマにした不思議なカフェが目に留まる。経営するのは静岡大大学院1年の南條未由さん(22)。静大2年のときに開いた「魔法のティータイム ヴェルベナ」は、魅力的な世界観とこだわりのメニューが人気を博し、若者を中心に連日にぎわいをみせている。 (板倉陽佑)

 運ばれてきた料理のふたが取られると、白い煙の中から森の切り株をイメージしたパンケーキが現れた。紫色のソーダは「魔法の滴」を加えるとあっという間に赤く色を変えた。パンケーキは控えめな甘さで食べやすく、爽やかな後味のソーダとよく合う。「味にもけっこうこだわっています」と南條さんが笑顔を見せた。

 中世の西洋を思わせる店内の世界観は店名の「ヴェルベナ」と同じ題名の物語をもとにつくった。魔法がまだ世に広く知られていない時代。古城に閉じ込められていた少女・モアはある日、少年と出会い外の世界の存在を知る。モアは後に「魔法」と呼ばれる不思議な力で外の世界に出るための研究を始めたのだった−。店のコンセプトはこんな物語だ。

コロナ禍 乗り越え

 南條さんが同店を開いたのは2021年10月。入学当初からコロナ禍の影響で自宅に閉じこもる日々が続いた。思い描いた大学生活とはかけ離れた毎日に焦りが募る中、父に起業を提案された。幼いころから起業が夢だったことや抑圧された日々の反動もあり、「後先考えず」店の開店準備に入った。

 店の構想は、幼いころに触れた西洋の童話や北欧神話に加え、高校1年の時に短期留学したイギリス南部の風景も取り入れた。建築デザイン事務所を経営する父の助言も取り入れ、店内を貫く巨木や大きな魔女の鍋など大胆なデザインをあしらった。

 店内の世界観に加え、独自のメニューは開店当初から注目を集めた。一方で苦労したのが接客だった。「コロナの影響でアルバイト経験もない中、敬語の使い方も戸惑った」と苦笑する。開店から2年半がたち、接客にも磨きがかかり、常連客も増えつつある。

卒業後は経営専念

 大学院に通う現在も授業の合間に店に立つ。卒業後は店の経営に専念するつもりだ。「このお店で非日常感を料理とともに楽しんで、たくさんの思い出をつくってほしい」と話した。