◇獣医師記者・若原隆宏の「競馬は科学だ」

 例年難戦になりがちなダービー卿CTだが、今年は輪をかけて悩ましい。攻め馬はすこぶる動いているのに、結果が伴わなくなっている馬が複数いる。

 ドルチェモアは2歳時に3戦3勝で朝日杯FSも勝ったが、3歳時のニュージーランドTで7着に敗れると、その後は2桁着順ばかり。昨年のこの競走の覇者インダストリアも、その後3戦、掲示板を外している。エエヤンは昨年のニュージーランドTを圧勝したが、その後5戦はぱったり。共通しているのは、集中力が続かず、走り切っていない。

 サラブレッドは比較的記憶力の優れた動物だ。特に聴覚に関しては裏付ける報告が多く、個体によっては厩務員の足音を聞き分けられると考えられている。

 競走中に何か極度に強いストレスにさらされると、全力疾走を嫌がるようになって、状態が伴っていても結果が出なくなる。今回挙げた3頭は該当しないが、競走中に心房細動を経験した馬が、しばしばその後低迷してしまうのは、全力疾走した時の発症で、苦しい思いをした記憶が足を引っ張るというケースと理解されることも多い。

 挙げた3頭の経験したストレス過多な現象は、パトロールを見返してもちょっと特定できない。ただ、3頭の集中しきれない要因はそれぞれ性質が違いそうだ。表現形が異なる。

 ドルチェモアは追い出すと手応えがなくなるというレースぶりが続いている。「走ってもきつくないよ」と、根気よく教え込むほかないだろう。今回騎乗する内田は追い切りにも乗った。「道中楽させながら、ためながら、ためながらだね。精神論の部分だから。最後はかみ合うよう祈るしかない」という。

 インダストリアは集中力が散漫で走り切っていないタイプだろう。佐藤良助手は「普段はおとなしかったり、色気づいたり。気持ちがかみ合ったりかみ合わなかったり。今回は、反抗するところも度合いが小さくなっているから、かみ合ってくれれば」と祈るような気持ちを吐露した。

 今回、攻め馬の組み立てを変えたのはエエヤンの伊藤大師。やや暴走気味に行って止まっているだけに「今回はやり方を変えた。首を挙げようが暴れようが、馬の後ろに入れるようにした。ニュージーランドTのころのように、追った後、筋肉痛を見せるようにもなった。それだけ負荷がかけられているということ」。どれも能力通り走ってほしいのだが…。