◇記者コラム「Free Talking」

 いきなりですが、「近代オリンピックの父」と呼ばれるピエール・ド・クーベルタン男爵の名言をここで一つ。

 「オリンピックで重要なことは、勝つことではなく参加することである」

 オジ記者がまだ小学生だった頃…。昭和の朝礼で校長先生が強調していたような気がする。3月の競泳・パリ五輪代表選考会の選考基準を考えていて古い記憶が掘り起こされた。

 決勝で日本水泳連盟が定めた派遣標準記録を突破した上位2人が代表に内定した。世界10位相当のタイム。日本独自の高いハードルだ。一方で、世界水泳連盟が定めた“ゆるい”五輪出場タイムも存在する。

 渡部香生子(27)=MEIGI=は女子200メートル平泳ぎで2位になったが、派遣標準記録に0秒24届かなかった。女子では最多となる4大会連続出場は消え、号泣した。世界水連の基準であれば、出場条件を満たしているのだが…。

 老い先短いオジ記者は、若者の涙を見ると“権利”はあるのだから「認めてあげたら」と思ってしまう。ただし、日本水連のハードルを越えていないので“自費参加”という条件付き。東京五輪バブルを終え、各競技団体の資金繰りは厳しい。

 五輪の応援ツアーでも100万円を超えるという。自費参加となれば…、多大な費用が必要になる。それでも応援される選手なのか。スポンサー、クラウドファンディング、地元自治体、母校の援助。競技だけでなく、これまでの社会とのつながりも試される。

 ヨットで世界を4周している海洋冒険家の白石康次郎(56)は笑って言う。「世界を一周するには陸と海、2つの冒険があるの」。“陸の冒険”は資金集め。どれだけヨットの技術が高くても、陸を制しないと夢はかなえられなかった。

 「オリンピックで重要なことは、勝つことではなく参加することである」

 昭和ではよく耳にした気がする。五輪で世界を感じ、視野を広げる―。出場条件を満たす記録を持ち、金銭的にも応援される選手の“自費参加”があってもいいのではないか。メダルは遠く、決勝に残るのも厳しいが、なぜか一部から熱烈に応援される。昭和生まれのオジ記者は、五輪でそんな光景も見てみたい。(アマチュアスポーツ担当・占部哲也)