◇記者コラム「Free Talking」

 パリ五輪まで100日を切った。時の流れの早さを実感するが、考えてみれば前回の東京五輪は3年前。新型コロナウイルス禍で開催が1年延期されたから、これまでになく五輪の到来を早く感じるのも無理はない。

 今夏の本番に向けてのカウントダウンも始まり、「いわく付き」だった2021年の東京五輪を取材した記憶がよみがえる。主にサッカー男子代表(U―24代表)と女子代表「なでしこジャパン」を担当したが、とりわけMF久保建英の涙が印象深い。銅メダルが懸かったメキシコとの3位決定戦に敗れ、埼玉スタジアムのピッチにへたり込んで号泣する姿は個人的には大会のハイライトだった。

 ただ前回は、大幅な人数制限をして観客を入れた静岡県での自転車競技と、宮城スタジアム(宮城県利府町)でのサッカー10試合を除き、無観客で行われた大会。今振り返って強く目に焼き付き、心に残っているのは、当時20歳のエースが流した涙よりも空席だけのスタンドであり、時折BGMだけが響く会場の静けさだった。

 「五輪を開催するにあたって国民の税金がたくさん使われていると思う。なのに、国民が見に行けないっていうのは、じゃあ一体誰のための、何のための五輪なのかという疑問がある。アスリートはやっぱり、ファンの前でプレーしたい」

 選手としての率直な思いを語ったのは、年齢制限のないオーバーエージとして五輪男子代表で主将を務めたDF吉田麻也だった。しかし訴えもむなしく、サッカーで観客を入れて行われた日本の試合はチリと対戦した「なでしこジャパン」の1試合だけに終わった。

 街中で自国の国旗を振る海外からの旅行者を目にすることも、もちろんなかった。当たり前の光景を最後まで見ることができなかった東京五輪は「スポーツの祭典」とは名ばかりの単なる“競技会”にすぎなかった。「五輪を取材しています」とどこか胸を張って言えないモヤモヤ感はぬぐえなかった。

 それから3年。コロナ禍は過ぎ去ったが、いま欧州ではロシアとウクライナの戦火は続き、中東情勢もきな臭い。戦禍による五輪への悪影響は無視できないとはいえ、2大会ぶりに「本当の五輪」が帰ってくる。大観衆がつくりだす雰囲気に選手がパフォーマンスで応える。そんな当たり前の景色が戻るパリの熱気を楽しみにしたい。(一般スポーツ担当・唐沢裕亮)