◇コラム「田所龍一の岡田監督『アレやコレ』」

 5月3日に東京ドームで行われた巨人―阪神7回戦は、「長嶋茂雄デー」と銘打たれた巨人の球団創立90周年記念試合。その晴れの大舞台に岡田監督が大きな期待をかける2年目、19歳の左腕・門別が今季初先発した。

 「セレモニーもあるし当然、緊張もするやろ。けど、プレーボールがかかったら自分の力を出し切るだけ。それで、どういう結果になろうと、そんなんは全然かまへんよ」

 岡田監督はこういって門別をマウンドに送り出した。1回、ポンポンと2死を取る。だが、吉川に二塁打されてリズムが狂った。岡本に四球を与え坂本以下に4連続タイムリー。2回には岡本に2ランを浴びて、結局3イニング6安打6失点で降板だ。

 「コーナーにそろえ過ぎや。もっと腕を振らな。ええストレートがあるのにもったいない。けど、ええ経験になったやろ」。試合後の岡田監督も「経験」に力を込めた。

 門別がこの試合で得たものは多い。その一番は「大きく育ってほしい」という岡田監督からの“大きな期待”である。だからこその晴れ舞台なのだ。

 昭和55(1980)年1月、甲子園球場での合同自主トレに参加したルーキー岡田は初対面のブレイザー監督からいきなり「私はルーキーを試合に先発出場させることはしない」と宣言されたという。

 「まだ、キャンプも始まってないし、ボクのプレーも見てへんのに…と思ったよ」

 ブレイザー監督は以後も岡田にまったく期待しなかった。岡田はそれが悔しかった。4月5日の開幕広島戦もベンチ入りしたものの出番なし。岡田の初先発出場はなんと、4月8日、ナゴヤ球場で行われたウエスタン・リーグの中日1回戦。「3番・三塁」で出場し4打数1安打1四球。そして翌9日の2回戦、スタンドにブレイザー監督以下、1軍首脳陣が居並ぶ前で4回、中日・美口から左中間へ特大の3ランを放った。

 「公式戦の第1号がウエスタン・リーグで出るなんて、プロに入る前は考えもしなかったですわ」と不機嫌に言い放った岡田に「ええ根性しとる」と感心したものだ。

 監督の「期待」が選手を育てる何よりの力。その舞台を与えるのが監督の仕事でもある。岡田監督からもらった“ええ経験”を生かせるか―。門別のこれからが楽しみだ。

 ▼田所龍一(たどころ・りゅういち) 1956(昭和31)年3月6日生まれ、大阪府池田市出身の68歳。大阪芸術大学芸術学部文芸学科卒。79年にサンケイスポーツ入社。同年12月から虎番記者に。85年の「日本一」など10年にわたって担当。その後、産経新聞社運動部長、京都、中部総局長など歴任。産経新聞夕刊で『虎番疾風録』『勇者の物語』『小林繁伝』を執筆。