◇コラム「田所龍一の岡田監督『アレやコレ』」

 “不思議の子”阪神・佐藤輝がついに2軍に落とされた。きっかけは5月14日の中日戦(豊橋)。1点リードで迎えた8無死二塁で、中日・田中がバント。捕手の坂本が捕り三塁へストライク送球。ところがこれをタッチを焦ってポロリ。逆転負けのきっかけとなった。試合後、岡田監督はあきれた表情で「あれで終わりよ。もうええ。普通のプレーやんか」と吐き捨てた。そしてその日のうちに2軍落ちを告げたという。

 「あれで終わり」とは佐藤輝を見限った言葉ではない。試合の勝負があのプレーでついたという意味。岡田監督ほど佐藤輝を気にかけている監督はないのだ。自身の著書の中でもこう話している。

 「オレくらいちゃうか。あいつに厳しく接している指導者は。あいつにとって初めての経験やろ。やんちゃでマイペース。その割に単純な“野球バカ”になれない。理屈や理論にこだわり過ぎて、言い訳ばっかりしているように聞こえるんや」。岡田監督は佐藤輝が高校、大学と「お山の大将」で育ったことが“甘さ”につながっている―とみている。

 昨年も夏前に佐藤輝は2軍に落ちた。そのときは野球に取り組む姿勢が問題とされた。ある試合でスタメンから外されると、すねたような態度で守備練習にも出ず、試合中もベンチの奥に引っ込んだままだったという。そこで岡田監督は平田ヘッドコーチに命じて「2軍落ち」を告げた。「おまえの姿を仲間のみんなが見ているんだぞ」と平田コーチは理由を説いた。今回の2軍落ちはそんな姿勢の問題ではない。技術の問題である。

 15日、西宮市鳴尾浜で2軍の練習に参加した佐藤輝は約50分、289本のノックを受けた。えっ、ちょっと待ってよ! 特別練習するのなら「守備」ではなく「打撃」ではないの? たしかに降格のきっかけは守備のミス。だが、それもこれも打てずに悩み、集中力を切らしたからだろう。

 今の佐藤輝の課題は①ボールを振らない②ストライクを振ってもヒットにできない③打球が上がらない―などなど。だが、それを指摘できるコーチはいても、治せる指導者が不在。岡田監督はいう。「去年の佐藤が特別で今が普通なのか…。オレはもっと伸びしろがあると思う。わからんなぁ、不思議な子や」。

 虎ファンは三塁守備のうまくなった佐藤輝なんて見たくない。見たいのは豪快なスイングでホームランをかっ飛ばすサトテルである。

 ▼田所龍一(たどころ・りゅういち) 1956(昭和31)年3月6日生まれ、大阪府池田市出身の68歳。大阪芸術大学芸術学部文芸学科卒。79年にサンケイスポーツ入社。同年12月から虎番記者に。85年の「日本一」など10年にわたって担当。その後、産経新聞社運動部長、京都、中部総局長など歴任。産経新聞夕刊で『虎番疾風録』『勇者の物語』『小林繁伝』を執筆。