◇無敗2冠列伝 ②トウカイテイオー

 第58回日本ダービー。20頭立ての大外枠ながら、単勝1・6倍と断然の1番人気に支持されたのは無敗で2冠目を狙うトウカイテイオー。18万人を超える観衆は、皇帝から帝王へと託された物語に陶然と酔いしれた。

 父は84年に史上初めて無敗で三冠を達成したシンボリルドルフ。その父の初年度産駒は期待にたがわぬ走りを見せつける。新馬戦はノーステッキで4馬身差の快勝を飾ると続くシクラメンS、若駒S、若葉Sと土つかずで勝利を重ね、91年クラシックの主役に。迎えた皐月賞は圧巻だった。18番枠からの発走も、スタートを決め、中団へつけると3コーナー過ぎで大外からうなるような手応えで進出開始。持ったまま直線入り口で先頭に立つと余力十分に後続を突き放し1冠目を奪取した。

 そして日本ダービー。レース3週間前には左腰の筋肉痛で調教を休むアクシデント。一抹の不安を抱えて臨んだ本番だったが、終わってみれば横綱相撲だった。偉大なる父が通った蹄跡を踏みしめがら直線半ばで先頭に。世代8311頭の頂点へと悠然と駆け上がった。当時38歳の鞍上・安田隆行(元調教師)は、これが自身初のダービー制覇。「馬を信じて乗りました。レースはすべて考えていた通り。でも僕はゴールに入るまで無我夢中でした。それに比べてテイオーは、本当に普段と一緒でした」。男泣きしながら相棒への感謝を伝えた。

 その後レース中に骨折していたことが判明し、誰もが確実視していた無敗での父子三冠の夢は断たれた。それからの競走馬生活でも2度の骨折に見舞われたが、その度に不屈の闘志で立ち上がりファンを魅了した。ラストランとなった93年有馬記念は実に1年ぶりとなる奇跡の復活V。客席から渦巻いた大歓声の「テイオー」コール。”皇帝2世”ではない。まさしく”帝王”の名にふさわしい競走生活だった。