明治期に刊行された茶業通鑑に日本最古の煎茶商として記されている山本山。

「山本山 ふじヱ茶房」は、私たちの生活の中にあたりまえのように存在しているお茶本来のおいしさを再認識させてくれるだけでなく、お茶や海苔との新しい出会いのある場所。ひと手間かけて丁寧に淹れたお茶を味わいながら過ごす時間はとても豊かで心地よいもの。今回は宇治玉露をいただきました。


お茶を淹れる美しい所作も眺めることができるカウンター席がおすすめです。

 製造工程としては煎茶と同じ玉露ですが、玉露は茶葉を摘み取る20日ほど前から畑に覆いを被せ、日光を遮断して栽培する被覆栽培(ひふくさいばい)で育てられます。日光を遮ることによって旨み成分のテアニンを封じ込め、テアニンが日光を受けることで渋み成分のカテキンに変化するのを制御。

 その結果、旨み成分が多くて苦味成分の少ない玉露になるのです。この栽培方法を考案=玉露を発明したのが山本山、六代目当主の山本嘉兵衛なのです。


使用する茶葉(玉露は7グラム)を正確に計ります。

器に温度差があると茶葉が過敏に反応してしまうため、まず茶器を温めます。

 こちらでは玉露と煎茶を同じ茶葉で三煎いただくことができ、それぞれの色や味わいの違いを楽しみます。

三煎目を抽出し終えた茶葉に合わせるものは…

 特に玉露は三煎の違いがわかりやすく、とりわけ一煎目は驚きの味わい。お茶の概念がひっくり返るかもしれません。そして、三煎目が注がれたあとには驚きの食体験が待っています。


湯冷しして40度にしたお湯を茶葉にゆっくりと注ぎます。一煎目は小さなおちょこを使用。最後の一滴まで静かに注ぎ入れます。

一煎めは小さなおちょこを使用。最後の一滴まで静かに注ぎ入れます。

【一煎目】

 すべての茶器を温め、取手のない急須・平宝瓶(ひらほうひん)に、茶葉7グラムを入れ、湯冷しして40度にしたお湯40cc注義、蓋をして3分間抽出します。湯呑みは小さなおちょこを使用。最後の一滴までしっかり注ぎます。このとき、急須を振ったり、ゆすったりすると苦味が出てしまうそうです。お茶は山吹色、あるいは黄金色で、お茶というより旨みの強い出汁のような味わい。最後にお茶の香りがふっと鼻を抜けます。

【二煎目】

 一煎目と同じ手順で抽出。一煎目より少し緑色が濃くなります。ここで、お茶請けの甘納豆が供されます。


一煎めより少し緑色が濃くなります

【三煎目】

 茶釜の湯(90度)を90cc注いで30秒抽出。きれいな緑色、馴染みのある味に。


味わいだけでなく、色の違いもわかりやすい玉露。

きれいに開いた玉露の茶葉をゆずポン酢でいただきます。

【茶葉】

 三煎目を抽出し終えた茶葉は柚子ポン酢をかけていただきます。茶葉は柔らかく、でも噛みごたえもあり、例えるならほうれん草のお浸しのような食感。玉露でしか味わえない最後のサプライズ。最初は「え、お茶っ葉を食べるんですか?」と、驚きながらも完食される方が多いそうです。

海苔のテリーヌにはオレンジピールが

 そして、日頃からお茶と海苔に親しんでいる方から、あまり親しみのない若い世代にもその魅力が伝わる新しいスタイルのスイーツ「テリーヌ」をご紹介します。


「テリーヌ食べ比べ お茶セット」2.500円。

「まっ茶」、「ほうじ茶」、「のり」の3種類で、それぞれのこだわりにも注目です。とりわけ「のり」は、上質な海苔が持つ豊かな風味を今までにないスタイルで楽しいでいただきたいという「不易流行」を重んじる山本山らしいスイーツ。

 それぞれのテリーヌのベースはフランス ヴァローナ社のクーベルチュールチョコレートと生クリームです。

【まっ茶】

 甘味だけでなくほのかな苦味が感じられるテリーヌには上質濃厚な宇治抹茶、金粉、クーベルチュールチョコレートを使用。白い層には濃厚な味わいを際立たせるために生レモン果汁、細かく刻んだ国産ゆずが練り込まれています。

【ほうじ茶】

 ほうじ茶そのものを食べているようなやさしい甘さのテリーヌ。じっくり焙煎したほうじ茶、ラム酒、金粉、白い層には粗く砕いた渋皮付きの国産和栗が練り込まれています。

【のり】

 海苔とチョコレートという驚きの組み合わせ。旨みたっぷりのテリーヌには山本山の焼海苔「あさくさ」、磯の香りを和らげる日本酒、金粉、そして、キリッとした黒い色を出すために竹炭を少々使用。白い層には細かく刻んだオレンジピールが練り込まれ爽やかなアクセントに。


箱入り(サイズ:横140×奥行55×高さ50mm)まっ茶テリーヌ 5,400円、ほうじ茶テリーヌ 7,560円、のりテリーヌ 8,640円。

 店内では冷凍の状態で供され、3段階に変化する味わいが楽しめます。

①上品なアイスクリームのような食感
②半解凍状態でほどよいテリーヌ感
③20〜30分で解凍が進み口の中に入れた瞬間にとろけて広がる滑らかな心地よい食感

 いかがでしたか。今すぐ、行ってみたくなりませんか?

 山本山といえば「上から読んでも山本山、下から読んでも山本山」というキャッチフレーズが有名ですが、その経営理念は「いまうまい。〜いつでも、どこでも、おいしい〜」。それを体現する新たな取り組みも積極的に行なわれています。

 昨年の6月には新しいスタイルでお茶を楽しみ、海苔を堪能できる料理メニューも提供するカフェ「フジヱラボ エキュート立川」をオープン。そして、今年の4月17日には、1日の乗降客数が世界でもトップクラスという新宿駅構内のエキナカグルメスポットEATo LUMINE (イイトルミネ)に「お茶漬けおにぎり 山本山」をオープンしました。こだわりのお茶と上質な海苔が忙しい人々のお腹と心を満たします。


山本山 ふじヱ茶房

所在地 東京都中央区日本橋2-5-1 日本橋高島屋三井ビルディング1階
電話番号 03-3271-3273
営業時間 物販 10:30〜18:30、喫茶 11:00〜18:00(※予約可)
お持ち帰り弁当 11:00〜18:00
定休日 施設に準ずる
料金 季節のお茶 1,700円、宇治玉露 2,300円ほか(お茶には和菓子が付いています)、抹茶わらびもち・お茶セット 2,200円、にほんばし海苔弁当 2,200円(持ち帰り弁当)など
https://fujie.yamamotoyama.co.jp/

山本山

1690年(元禄三年)初代・山本嘉兵衛が日本橋に茶・紙類を商う商店を開く。江戸期には「煎茶」を初めて販売し、六代目当主が「玉露」を発明するなどしてお茶の普及に寄与した。1947年からは海苔の販売も開始。不易流行の精神でお茶と海苔の新しい価値を提供している。2018年、創業の地に「山本山 ふじヱ茶房」をオープン。※「山本山」とは「山本山の茶園」を意味する。

文=齋藤素子
写真=志水 隆