ゲストが座るテーブルの奥には、大谷石でしつらえられた薪火台で調理する豊島シェフ。調理や盛り付けする姿を間近に見ながら食事を楽しむことができる。

 2024年6月、富士山北麓に位置する西湖に新たな食の拠点として「Restaurant SAI 燊(レストラン サイ)」がオープンしました。

 料理を手がけるのは「ゴ・エ・ミヨ」で3年連続受賞、2023年度農林水産省料理人顕彰制度「料理マスターズ」の受賞経歴をもつ豊島雅也シェフ。

「大自然のなかで、食の本質を味わってほしい」。そんな想いから、旬の食材を使ったプリミティブな調理法を追求。ワークショップや自然ツアーなど食にまつわるさまざまなコンテンツも提供する西湖の新名所「Restaurant SAI 燊」の魅力に迫ります。


ジビエやキノコなど、富士北麓の幸を使った「奥・山梨料理」


メインディッシュのひとつ「鹿肉 筍 木の芽味噌」。春先に獲れた鹿肉は、さっぱりしているのが特徴。山椒の木の芽を「甲州味噌」と合わせてペースト状にしたソースと、白樺の樹液を500倍に薄めてワインと一緒に煮詰めたソースを順に絡めていただく。※メニューは季節や日によって変わります。

 富士五湖のなかでも、もっとも山深い西湖。富士山麓の食材をふんだんに使った「Restaurant SAI 燊」の料理は“奥・山梨料理”と名付けられている。


新玉ねぎのスープは、一杯につき一玉使用。低温で4時間じっくりと煮込み、一度凍らせて粉砕してからクリームを足している。極限まで引き出された新玉ねぎの旨みと甘みが、口のなかで爽やかに広がる。※メニューは季節や日によって変わります。

 鹿や鶏、高原野菜にキノコ、山菜――。食材として使用するのは、富士山の清らかな伏流水の恵みを受け、富士山麓の厳しくも豊かな大自然に育まれた命たち。

 地元の漁師や農家から仕入れるだけでなく、狩猟免許をもち、養蜂、キノコや山菜採取にも積極的に取り組むシェフが毎朝山に入り、自らの手で収穫した食材を使用しています。

 よりテーブルに新鮮な食材を届けるため、今後は敷地内にジビエの食肉処理施設を建て、ハーブガーデンでのハーブ栽培もおこなう予定だとか。


淡水のブランド魚「富士の介」は、きめ細やかな身質、程良くのった上品な脂などが特徴。海で養殖されたサーモンと比ベてクセがなく食べやすいと言われている。

 またキングサーモンとニジマスを掛け合わせた山梨のブランド魚「富士の介」や、富士山に自生する葉や実を使ったスパイスなど、山梨で獲れたあらゆるものを料理に使用しています。

薪火によるプリミティブな調理法で「いただいた命はすべて使う」


たしかな腕と豊富な経験から導き出される絶妙な焼き加減で、素材の旨みの最高値を引き出す豊島シェフ。

 皮を捨てずに使ったり骨から出汁を取ったり。“いただいた命を美味しく、そして余すことなく使う”ことをモットーとする「Restaurant SAI 燊」。調理方法も薪火を中心にしたプリミティブな手法を採用し、素材本来のよさと味わいを最大限に引き出します。

 メニューは、季節によって入れ替わる旬食材を使った「シェフの本日のお任せコース」のみ(20,000円、ドリンクは別途)。フレンチをベースにしながら和のテイストも取り入れるなど、ジャンルにとらわれない自由な発想から生まれた“奥・山梨料理”は、唯一無二の味わいです。

アルコールは料理とゲストに合わせて。ノンアルコールペアリングも


アルコールペアリングは「酒」(しゅ) 、ノンアルコールペアリングは「汕 」(さん) 。アルコールが飲めない人もお酒の場をともに楽しめる。

 ドリンクは日本ワインを中心にラインナップ。季節ごとに移り変わる料理だけでなく、その日のゲストがつくるレストランの空気感にも合わせながら、豊島シェフが山梨県産のワインや日本酒などをセレクトしてくれます。

 またソーダや紅茶にハーブ、果実、樹液などをミックスした香り高いドリンクを提案するなど、ノンアルコールのペアリングも充実しているのもうれしい。

山梨の自然を五感で楽しむレストラン空間も魅力


靴を脱いで店の中へ。檜のフローリングが心地よく、家に帰ってきたような親しみやすさを抱く。

 料理だけでなく、店内の空間そのものも魅力のひとつです。デザインのベースは料理コンセプトにも通じる「木・火・土・金・水」。自然界を構成する5つの要素が互いに調和するような空間を目指し、地元の木材や土、繊維を使いながら、地元の作家とともに作り上げたのだとか。

 たとえばエントランスに掛けられたシルクの暖簾は、山梨県に住む作家・古屋絵菜さんが「ろうけつ染め」を施したもの。墨汁で染め上げた入り口側はさながら黒い壁のようで、「食の新たな世界」へ踏み入れる前にひと呼吸おく「間」としての意味合いがあるそう。


暖簾をくぐると、山梨の山並みが描かれている。

中央に掛かるカーテンは、富士吉田のテキスタイルブランド「Watanabe Textile」のもの。

 敷地の土や枯葉を混ぜ込んだ土壁による素朴で落ち着いた空間が広がる個室には、笠間焼の作家Keicondoさんが手がけたランプシェードが飾られています。窓の障子には、古くより和紙の産地としても知られる山梨・市川三郷で作られた和紙を使用。障子から注ぐ暖かく柔らかな光もまた、心地よい食事空間を演出してくれます。

稀有な生態系をのぞく。青木ヶ原樹海ツアーも予定


青木ヶ原樹海内にある天然記念物・竜宮洞穴。夏場でも涼しい天然のクーラーだ。

 今後は、食事とセットでさまざまな体験ができるローカルツアーやワークショップなども開催していく予定だそう。

 なかでもオススメは、富士山麓に広がる青木ヶ原樹海散策ツアーです。1200年前の噴火によって溶岩が堆積してできた青木ヶ原樹海は、土が10センチほどしかないにも関わらず樹木が生える世界的にも珍しい森。樹海に詳しいネイチャーガイドの案内のもと、樹海が生まれた経緯や歴史、そこで育まれる生態系について学ぶことができます。


地面が溶岩だと雨水がすぐに流れ出てしまうため、青木ヶ原樹海は植物や樹木にとって厳しい環境と言われています。そんな中、森を支えているのは、木の根に生える苔。樹木は保水力のある苔から水分を得て成長するのだとか。

近隣の山や森に入り、山麓の素材を採集。酢やアルコール、塩漬け、砂糖、麹を使った醗酵ワークショップも構想中。

ガイドが帯同し、山菜やきのこ狩りを体験できるプログラムも!?

 あらゆる角度から、食の可能性や楽しみ方を追求する「Restaurant SAI 燊」。生きとし生けるものの尊さを噛み締めながら、「奥・山梨料理」を五感で愉しむ。そんな記憶に残る新たな食体験を味わいに、ぜひ西湖へ足を運んでみてください。

Restaurant SAI 燊


Restaurant SAI 燊。

所在地 山梨県南都留郡富士河口湖町西湖208-1
営業時間 17:30 ドアオープン、18:00 スタート ※完全予約制
定休日 日・月曜 ※祝日やイベントによる不定休の場合もあります。
座席数 22 席 (個室あり)
Web:Restaurant SAI 燊

文・写真=平野美紀子