韓国の情報機関、国家情報院は先月31日の国会情報委員会で、北朝鮮の現状について報告した。それによると、トウモロコシ価格は第1四半期と比べ60%、コメ価格は30%近く上昇し、金正恩政権に入ってから最高値を記録した。

餓死者は例年の3倍に達し、強盗・殺人などの凶悪犯罪が昨年の100件から300件に増加。物資を奪うために自作の爆弾を使うなど、大規模化・組織化した犯罪も増加している。

さらに自ら命を絶つ人が昨年比で4割増え、金正恩総書記は緊急対策を講じるよう指示を出したとも報告した。その指示の詳細について、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じている。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の幹部によると、金正恩氏が批准した「自殺を防止することについて」という非公開指示を受け、朝鮮労働党咸鏡北道委員会は先月20日、各市、郡の朝鮮労働党委員会の責任幹部(組織のトップ)を集めて緊急会議を開いた。

その場では自殺の深刻な実態が明らかにされた。人口10万あまりの鏡城(キョンソン)郡の仲坪里(チュンピョンリ)では今年に入ってからだけで14件、朴忠(パクチュン)労働者区では11件の自殺が発生した。

金正恩氏は2018年7月、この仲坪里に100ヘクタールの野菜温室農場を建設することを指示した。金正恩氏が立ち寄ったことで他よりは重点的に資材などが供給されるなど、気にかけられている地域ではあるが、それでもこの惨状なのだ。

全国有数の巨大卸売市場を有する道内最大都市の清津(チョンジン)市も、郊外の 富寧(プリョン)区域では、今年に入って今までに10件の自殺が起きている。そのほとんどが一家心中だというから、十数人から20人以上が亡くなったいものと思われる。

北朝鮮で、自殺は「最高指導者から授かり、革命に捧げるべき命を勝手に投げ捨てた裏切り」と考えられ、遺族にも累が及ぶほどの行為とされているが、朴忠労働者区と富寧区域での一家心中では、家族が国の社会制度を批判する遺書を残したことが公開され、衝撃が広がっている。

両江道(リャンガンド)の幹部によると、朝鮮労働党の三池淵(サムジヨン)市委員会では先月23日、同様の非常会議が行われた。自殺防止に関する金正恩氏の指示が下されたことも、自殺防止対策緊急会議が開かれたことも今までなかったとこの幹部は伝えている。

会議では、餓死よりも自殺の方が社会的に与える影響が強いという内容の金正恩氏の指示内容が伝えられた。また、白岩(ペガム)郡では先月中旬、60代の夫婦が自殺し、恵山(ヘサン)市では、自ら命を絶った人の服から「この国で生まれたことを後悔しています」との遺書が発見されたことも伝えられた。

金正恩氏の指示伝達では「自殺は厳然たる社会に対する挑戦であり、国家に対する反逆」だとし、自殺が発生した場合、幹部に連帯責任を取らせるとの内容が読み上げられた。それを聞いた幹部たちだが、これといった対策を打ち出せないまま、会議は終了した。

「自殺のほとんどがひどい貧困と飢えのせいなので、現状では誰も出口戦略を示せない」(幹部)

この認識ややり方で、効果的な自殺対策などまずできまい。

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