前編【ついに住宅ローン「変動金利」が上昇へ! 住信SBIネット銀行が「短プラ0.1%アップ」でも、専門家が「いまこそ変動金利を有効活用すべき」と語る理由】からのつづき

 住宅ローンアナリストの塩澤崇氏の予測によれば、変動金利は今年0.25%まで上昇し、来年以降は時間をかけて1%前後まで上昇する可能性があるそうだ。支払総額が増えるとより心配なのが、病気など「もしもの時」のローンの支払いである。

(前後編の後編/前編の続き)

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「金利と団信」をセットで検討

 一般的に、貸付が高額になる住宅ローンは、死亡時などに残債を保険会社が肩代わりする「団体信用生命保険(=団信)」の加入が必須となる。

 もとは貸し付ける側のリスクヘッジの面も大きかった団信だが、近年は保障内容を手厚くし、借り入れる側のメリットとして訴求する銀行が増えている。長く低金利の時代が続いたことで、各社の金利がほぼ横並びとなり、金利を競い合うだけでは顧客獲得が難しくなったという事情があるようだ。

 中でも、保障が手厚いことで知られるのがネット銀行の団信だ。ネット銀行は原則的にリアルな窓口を持たず、手続きをWEB上で完結させることで経費を圧縮している。そうして捻出した予算を、金利の引き下げや団信の保障内容の原資にすることで、若い世代を中心に支持を集めてきた。

 例えば、先陣を切って短プラの引き上げを発表した「住信SBIネット銀行」は、「3大疾病保障」と謳い、ガンの確定診断を受けるか、急性心筋梗塞もしくは脳卒中で長期間、就労ができなくなると、ローン残高の半額が免除される(対象は40歳未満で、ほか諸条件あり)。

 金利を上乗せすることで保障を全額まで引き上げることもでき、住宅ローン利用者の多くが「金利と団信」をセットで検討するのが時流になっている。

万が一の際、夫婦両方の残債0円になるローン

 また、今年2月には、さらにもう一歩進んだ「団信」の登場が明らかになった。銀行大手の「りそな銀行」が“ペアローン型団信”の取り扱いを発表したのだ。

 ペアローンとは、物件の購入資金を夫婦それぞれが同じ金融機関からのローンで調達する方法のこと。共働き世帯が増えたことや、マンション価格の高騰により、近年では若い世帯を中心に一般的なローン形態となっている。

「弊社では、近年の住宅ローン取り扱いのうち9割が変動金利によるお借入れで、全体の3割はペアローンです。また、ペアローンの比率は年々増加傾向です」

 そう話すのは新たに「がん特約付きペアローン型団信」(以下「ペア団信」)をリリースしたりそな銀行で、団信の設計に携わる担当者だ。

「営業方針としてペアローンを推奨しているわけではありませんが、住宅価格の高騰によって、必然的にペアローンでお借入れされる世帯が増えているのが実情です」(担当者)

 りそな銀行が10月1日から取り扱いをはじめる「ペア団信」は、債務者となる夫婦等どちらかが死亡もしくは高度障害を負うか、所定のがんと診断された場合に、両者の住宅ローンが0円になるというもの。日本生命との共同開発で生み出された“新商品”だ。

「特に好立地な都心マンションなどは、 ペアローンを組まないと手が届かないぐらい値上がりが続いています。ただ、ペアローンは一方に“万が一”があった際、残された人が仕事をしながら返済を続けなければならず、負担が大きい。ペア団信で利用者のそうした不安を取り除くことができれば」(担当者)

 通常の団信に比べると、保障内容が加わる分、金利が上乗せされることになるが、借入額の多い夫婦にとっては、万が一の際に残債が0円になるというのはインパクトが大きい。

「団信自体を目当てに住宅ローンを組む人はいない」

 しかし、3人に1人がガンになる言われる昨今、団信の充実は利用者にとっては有り難いが、貸し出す銀行にとって、負担が大きいのではないか――。ここからは前編に引き続き、住宅ローンアナリストの塩澤崇氏が解説する。

「団信が一般的な生命保険と比較して割安なのは事実です。理由はそもそも、保険金の支払い件数が少ないからなのですが、大きく3つの要因があります。1つ目は繰り上げ返済。日本人は皆さん真面目なので、定年の60歳前後で繰り上げで返済を終えてしまうケースが少なくありません。保険の対象となる残債がなければ、保険の支払金も発生しませんし、高齢者があまりいないのも特徴です。2つ目は、団信自体を目当てに住宅ローンを組む人はいないということ。団信は住宅を買うために言わば強制的に加入するものであって、団信に入るためにローンを組むわけではありません。その一方で、一般の保険は、例えばガン家系であるとか、健康に不安がある人が入るもの。3つ目は、家を買う人は若くて健康体な人がほとんどだということですね。以上のことから、団信の加入者構成が若く健康な世代に偏っているため、団信の保障は低コストにも関わらず非常にお得なのです。」

――団信のサポート範囲は、上乗せ金利を払ってでもなるべく手厚くした方がいいのでしょうか。

「上乗せ金利によって、実際の負担がどれぐらい増えるか計算すると分かりやすいと思います。例えば“がん診断で残債50%が免除”という団信が、0.1%の上乗せで“100%免除”になるとします。借入額が5000万円だとして、0.1%の上乗せだと、35年間の支払い総額が100万円増えることになります。これを月当たりに換算すると約2400円。もともと50%がついているのなら、がん診断を受けた時に受け取れる金額は最高で2500万円。残債がいくらの時に診断を受けるかによるので一概には言えませんが、カバーされる金額を考えれば、がん保険よりも割安です」

――りそな銀行の「ペア団信」もおすすめですか?

「実際の上乗せ金利が発表されていないので、現時点では正確な評価はできませんが、夫婦のペアローンの全額が免除となるわけですから、心理的な安心感は大きいでしょうね。“保険は安心を買うもの”ですから、そうした選択肢が増えるのは利用者にとってプラスになると思います。団信はローンの申し込み時しか入れませんから、例えばモゲチェックのような比較サービスを使って、じっくり吟味して欲しいですね」

 現役世代の多くが初めて直面する「金利のある世界」。インフレ経済下では「持つ者」と「持たざる者」の格差が広がりやすいと言われる。「積み立てNISA」や「変動金利」、そして「団信」。今まで以上に私たちのマネーリテラシーが試されている。

前編【ついに住宅ローン「変動金利」が上昇へ! 住信SBIネット銀行が「短プラ0.1%アップ」でも、専門家が「いまこそ変動金利を有効活用すべき」と語る理由】からのつづき

デイリー新潮編集部