かねがね批判が絶えない日本アカデミー賞。特定の監督や大手映画会社の作品が受賞を重ね、忖度(そんたく)が過ぎるのではないかといわれ続けてきた。今回もその傾向は変わらずで、ならばいっそのこと、同賞の象徴的存在である山田洋次監督(92)に世上の声をぶつけてみた。

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 1978年に誕生した日本アカデミー賞はこのたび第47回を迎えた。今月8日の授賞式に備えて、各優秀賞は発表を終えていた。

「作品賞、監督賞、脚本賞、主演女優賞などの主要な賞はそれぞれ、事前に5作品分の優秀賞の発表を済ませておきます。そして、授賞式当日にそれぞれの優秀賞の中から、最優秀賞がひとつだけ発表される流れになっています。つまり、前もって優秀賞に選ばれたことが、いわゆるノミネートと同じ意味を持っているのです」(映画ライター)

「お決まりを繰り返してきた」

 山田監督が手がけた「こんにちは、母さん」は今回、作品賞にノミネートされた。また、同作品に関しては、吉永小百合(79)が主演女優賞にノミネートされてもいる。共に日本アカデミー賞の常連として知られる山田監督と吉永は、今回もご多分に漏れず“御尊顔”を連ねてきたわけだ。

 山田監督は昨年まで作品賞に20回もノミネートされ、その内の4回は最優秀賞に選ばれた。監督賞と脚本賞についても同程度の受賞回数を重ねてきた。一方の吉永も昨年まで主演女優賞に20回ノミネートされ、その内の4回で最優秀賞に選ばれている。

 映画評論家の吉田伊知郎氏はこう語る。

「山田監督の作品は『男はつらいよ』などのシリーズもの以外、ほぼすべてが作品賞、監督賞、脚本賞のいずれかにノミネートされてきました。そして、数回のうち1回は最優秀賞を取る、というお決まりを繰り返してきた。吉永さんの主演女優賞についても同様です」

「巨匠をねぎらう場に」

 日本アカデミー賞協会の会員にはKADOKAWA、松竹、東映、東宝の社員が多く、授賞に関する決定権をこれらの会社が握っているといわれてきた。

「ひと昔前ほど露骨ではありませんが、いまだに大手映画会社の持ち回りで賞が決まっている印象があります。その上で過去の実績がリスペクトされ過ぎており、巨匠をねぎらう場の様相を呈しているといえます」(同)

 コラムニストの今井舞氏によれば、

「あまりに形骸化しており、もはや真面目に批判する人を目にすることがありません。私にとって日本アカデミー賞は、今年も山田監督は元気でいらっしゃるんだな、ということを確認するためのイベントです」

本人に聞いてみると…

 では、当の山田監督を電話で直撃してみた。まずは、これまで何度も日本アカデミー賞を取ってきたことについて尋ねると、

「まあ、長生きしているからね」

 と、満更でもない返事だったが、忖度が蔓延(はびこ)っているのではないか、との批判について振ると、

「なに、僕にそんなことを聞きたいの?」

 その後、審査の方法や同賞のあるべき姿について質問を投げかけたが、

「答えようがありません」

「分かりません」

 との回答だった。もちろん山田監督の数々の功績は素晴らしいが、巨匠であればこそ批判の声にも耳を傾けてほしいと願ってしまうのだ。

「週刊新潮」2024年3月14日号 掲載