“クレオパトラの鼻がもう少し低かったら歴史が変わっただろう”とは哲学者パスカルの箴言だが、影響力の大きさならこちらも負けていないかも。アメリカ大統領選の行方を左右するテイラー・スウィフト(34)。希代の歌姫は今、東南アジアでの“いがみ合い”にも巻き込まれて――。

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 昨年からスタートしたワールドツアーで、今年2月には東京ドームでの来日公演をこなしたスウィフト。ラジオDJで音楽評論家の山本さゆり氏によると、

「恋愛遍歴など実体験を元にした歌詞の人生観や男性観が、若い女性を中心に熱烈に受け入れられています。大スターなのにマドンナやマライア・キャリーのように偉ぶらず、素朴なところも人気の理由でしょう」

大統領選への影響力

 SNSのフォロワーは約2.8億人。彼女の言動は、11月に控える米大統領選で返り咲きを狙うトランプ前大統領(77)の最大の“脅威”となっている。

「前回の大統領選ではバイデン支持を表明しました。中絶問題やLGBTQなどのトピックで彼女のスタンスは民主党と一緒ですから」

 と、テレビプロデューサーのデーブ・スペクター氏。

「今回はまだファンに投票を呼び掛けただけですが、彼女が“反トランプ”なのは分かりきったこと。候補者が正式に決まる8月以降に支持する方を表明するかもしれませんね」

 トランプはSNSで〈彼女がバイデンを支持するはずがない〉とけん制する。トランプ信者たちは“彼女は政府のプロパガンダ兵器”だという陰謀論を拡散する。なりふりかまわず“脅威”を封じようと必死だが、

「今年、18歳となって新たに選挙権を得る若者が800万人います。政治に無関心なファンでも、テイラーに従って投票に行けば一大勢力になりますよ」(同)

 そんな彼女が存在感を示すのはアメリカにとどまらない。太平洋を越えて、東南アジアの国々でもホットな火種となっているのだ。

 シンガポール在住のジャーナリストによれば、

「“東南アジアでの公演を独占するため、シンガポール政府はスウィフト側に4億5000万円支払った”と、タイのセター首相がぶちまけたのです」

詐欺事件が多発

 シンガポールでのコンサートは、3月2日から8日間にわたって行われた。リー・シェンロン首相も“密約”について認めたうえ、

「“経済成長と観光客の呼び込みにつながるなら、なぜそうしないのか分からない”と言ってのけました。フィリピンの国会議員は“よき隣人のすることではない”と非難しましたが、リー首相は問題ないとしています」(同)

 それもそのはず、約2万円のチケット30万枚は瞬く間に売り切れ、近隣国からファンが殺到し、ホテルや飲食店は大入りだ。“スウィフトノミクス”と呼ばれるその経済効果たるや、しめて560億円ともいわれている。リー首相は笑いが止まらないだろう。

 おまけにこんな余波も。

「チケットをめぐる詐欺事件が多発。今年に入ってから1200人以上が被害に遭い、50人近くが検挙されています」(同)

 図らずも、陰に陽にその力を轟かせているわけだ。

 再びデーブ氏が言う。

「シンガポール政府としては、国民に向けて“大スターを連れて来たぞ”というアピールになりましたが、近隣国は不愉快でしょう。国が海外スターの取り合いをするなんて聞いたことがない。すごい現象なのは間違いないですよ」

 歌姫を利用しようとうごめく各国の首脳たち。次に鼻を明かされるのは誰?

「週刊新潮」2024年3月21日号 掲載