観光地と航空・鉄道会社、施設のPRで旅情を誘う2時間サスペンスはほぼ壊滅。いわゆる「アゴ・足・枕」をつけたスポンサーも皆無。船越英一郎も片平なぎさも旅に出ず、すっかり自宅待機の令和。2時間ドラマはまったく別のきな臭い枠へ。

 大企業の創業者の苦労話か、公金投入する割に客足も利ザヤも期待できない公的イベントの宣伝か、懐古趣味の中年を取り込む同窓会モノという伏魔殿に。テレビ局の断末魔の叫びだが、誰も真剣に観なくても利益はある。特徴的なスペシャルドラマ3本をご紹介する。

 まずは企業・創業者礼賛モノ。世界のSEIKOを創業した服部金太郎の物語、「黄金の刻」(テレ朝・3月30日放送)。若き日を水上恒司が、中年期以降を西島秀俊が演じた。海外製の精巧な懐中時計に魅せられて、日本でも庶民に時計を普及させるべく、剛腕を振るう。

 火事やら元職人(濱田岳)の逆恨みによる嫌がらせやらコミュ障な職人(コミュ障っぽくない山本耕史)の扱いに困る社員(正名僕蔵)たちのストライキやら、を一気にダイジェストでお届け。たった2時間では丁寧な心情描写など入るわけがない。でも世間もそれを求めていないんだよね。叙情より叙事、長広舌より時短。結果、駆け足で物足りなく、役者の印象も残らない。SEIKO社員全員にDVD買わせるのかしら。

 もう一本、盛り上がる気配がまったくない大阪万博のブースター作品「万博の太陽」(テレ朝・3月24日放送)。ブースターというかプロパガンダというか。昭和の大阪万博を懐かしむために、アイコン的な橋本環奈を起用。万博が好き過ぎて、東京から大阪の伯父(唐沢寿明)の家に居候するヒロイン。聡明で美しいいとこ(飯豊まりえ)の見合い相手(木戸大聖)とちゃっかり恋もして、コンパニオンとして万博にも参加することに。女の自立を描くと思いきや、THE・昭和な展開。

 伯父によるちゃぶ台ひっくり返しや水没げんかで笑って仲直りなどの昭和的寸劇。伯母(江口のりこ)といとこ(番家天嵩)が醸す昭和感。少女漫画に出てくるような性悪なお嬢様キャラ・勅使河原さん(大原優乃)のグッジョブな結末もご都合主義だが尺的には限界だよね。しかし、みんな万博に興味ある? 国や自治体主導のイベントがどれだけ汚濁にまみれるか露呈したはずだが。寄らば大樹の接待に勤しむテレ朝の魂胆、いかに。

 さて接待といえば。「相棒」抜てき以降は資生堂にソフトバンクと大手CMに起用された反町隆史が26年前のドラマの続きを演じた「GTOリバイバル」(フジ・4月1日放送)。久々の窪塚洋介に気配を消した小栗旬など、同窓会要素で話題に。過去作の再生回数も急上昇なら企画は成功、松嶋菜々子の登場で夫婦接待も完遂。「26年前と変わらない」という世間の声は、意訳すれば「小芝居が鼻につくのも相変わらず」だけれども。そういえば、他の役者に鬼塚を託した過去はすっかりなかったことに……。ともあれ、反町の面目躍如と小手伸也の小悪人っぷりは記憶にとどめておきたい。

吉田 潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

「週刊新潮」2024年4月18日号 掲載